「本当はヤバイ!韓国経済」三橋貴明著

 少し古い本ですが、今頃になって読みました。ずいぶん売れた本のようで、その後続編も出てシリーズ化されていますが、私はまるで興味がなく、視野に入っていませんでした。同じ「中小企業診断士」が書いた韓国経済の本、ということであらためて発見し、読んでみたわけです。

 国際収支の統計資料を起点に、経済の実態を明らかにしていく、というアプローチは、企業診断において財務諸表を比較分析しながら問題点を抽出していくやり方を考えれば、至極当たり前のアプローチなのですが、ジャーナリズムの世界では、これが新しかったようです。

 国際収支の数字の見方を、具体的な事例をあげながらわかりやすく教えてくれますので、今までちんぷんかんぷんだった経済用語がスムーズに理解できます。この点で今までになかった本だと思います。韓国経済の基本構造を、お金の動きからわかりやすくモデル化しているのは、さすがだと思います。

 ただし、数字の持つ意味、その背景の分析においては、一部、新聞記事を資料とはしてはいますが、基本的に「こうであろう」という独断で結論に持ち込まざるを得ないため、突っ込みの弱さと、一方的な思い込みを感じます。 
 著者自信も述べているように、企業診断ならば、本来は財務諸表の分析の後は、経営者や従業員、関係者へのヒアリングによって、さらに課題を抽出、裏づけしていくわけですが、いかんせんそのステップを踏むことができないため、統計資料数字からの推測と、著者自身もその信頼度を批判している新聞記事に一部頼らざるをえないわけです。

 韓国社会や企業についての描写については、ある側面だけを見て、一方的に判断し、さらにそれを面白おかしく他人事として笑っていると感じられる点も多く、終始違和感を感じてしまいます。ある事実の背景には、さまざまな事情があり、その状態を何とか改善しようとしている人たちがいるはずなのですが。。
 著者にとって、その国にどんな人がいて、実際にどんなことを考えて生活しているのか、ということは、基本的に興味の範疇外なのでしょう。韓国における「反日」本と同じようなスタンスだと感じます。
 あくまで著者の一番の狙いは、統計数字から経済の実態を明らかにすることであり、あまり重要ではない、その背景となる社会分析については、一般の人にわかりやすいように、ジャーナリスティックに表現したということなのかも知れません。
 数字の分析については、なるほど、という内容である分、残念な本です。