この本、以前から気になっていたのですが、先日家にたまった本をブックオフに売りに行った際、中古本が売られているのを発見して買ってきました。ずっと積読になっていましたが、この三連休でやっと読んだ次第。
ビジネスの経験談の本は、たいてい自慢話か無味乾燥な事実の羅列になってしまうことが多いのですが、この本は極めて抒情的なトーンの中で、ロシアの文化や社会などへの考察も交えながら、また奥田会長との個人的なエピソードなども挿入しながら、ビジネスの体験談が語られるという不思議な雰囲気を持った本です。
著者は、もともと長銀のエコノミストで、ウクライナ大使館付き調査員からトヨタに転職し、ロシアのトヨタ販社の社長を2004年から09年まで5年間勤められた方です。叩き上げのビジネスマンではない、ということがこうした独自のトーンを生み出しているのかも知れません。
ロシアというまだまだまだ社会のルールやモラルも整っていない不条理で荒々しい未成熟社会の中で、コンプライアンスを通しながら、その国の流儀の中で会社を経営するということの難しさは並大抵でないでしょう。著者はその中での苦労を失敗例も交えて率直に語ってくれており、好感が持てます。
税務監査で言いがかりをつけられ、多額な追徴金を請求されそうになったり(通常は賄賂を渡して解決)、社屋の建設には調整役をかましたさまざまな調整が必要だったり、日々問題が起こる通関・物流の難しさ、さらに最終的には、リーマンショックと原油価格の下落で自動車の需要が急激に落ち込み、発注のコントロールが遅れ巨大な在庫を抱えることになったことまで、ビジネスをしていれば良くありがちな話が実体験で語られています。
そうした厳しいビジネスの現実の中にあっても、著者の視点は常にロシアの社会・人々を、たとえ簡単には理解することはできなくとも、そのまま受け入れようとしています。こうしたビジネスと人文の接点は僕自身が日々考えていることでもありますので、ふむふむと面白く読ませていただきました。
この本が出版されたのは21年末ですが、その後、トヨタのロシア事業は、22年9月に生産・販売を中止しています。著者を始め多くの人が積み上げてきた努力が一瞬に吹き飛んでしまっています。ロシア社会は、まだまだ荒々しく未成熟な状態が続くのでしょうか。