日経ビジネス 09.11.30号特集 『中国、独り勝ちの代償』    エズラ・ボーゲル「一党支配こその利点がある」

 日経ビジネスの中国特集記事で、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者であり、かつて躍進する日本の姿を世界に紹介したエズラ・ボーゲル氏が、中国について語っています。
 昨今の日本における中国報道は、大衆受けを狙ってか、どんどん「反中」に偏っていくようなのですが、ボーゲル氏の意見は客観的であり、私の考えるところとほぼ一致しています。


 政治指導部の力が強い中国では、世界中から集めた情報を基に、国の将来のために必要な政策を次々に決定し、ダイナミックに実行している。
 日本や米国ではそうはいかない。
 世論調査の反応を見ながら慎重に政策を決めていくが、そうしたやり方ではうまくいかないことが少なくない。

 「社会全体の利益のため」「国の発展のため」という理由で政策を推進することは、民主主義国家では実行しにくくなっている。
 一方で、非民主的で遅れた国だと見られている中国では、いくつもの大プロジェクトを実現しようとしている。


 政治が指導力を発揮できるのは、共産党一党体制だから。
 「一党支配はいつか崩壊する」と言われているが、中国共産党は、自己変革を遂げてきている。全世界から様々な成功例を学び、一気に吸収していく今の共産党は侮れない。

 急成長を続ける限り、様々な歪みは目立たない。しかし、国民の生活水準が上がれば、日本のように国際競争力を失っていく。
 その時に、今の政治体制・組織、方法論を続けられるのか。中国の政治指導者が世論の力に抗えなくなった時、どのような行動に出るのか。それが、最大の不安要素である。



 日本のマスコミでは、中国は、一党独裁、非民主的、人権抑圧、などと評されることが多く、それは大なり小なり正しいでしょう。
 しかし、1979年の改革開放以来30年の歴史を振り返ると、共産党独裁政治は、きわめて成功してきたと言えるのではないでしょうか。
 共産党政権は、社会主義経済から資本主義経済へ、社会の仕組みを自体をひっくり返す、という壮大な実験を、大きな混乱をおこすことなく、経済成長と両立させながら実現させてきました。
 末端では腐敗などの課題が根深いものの、国家レベルでは、相反する課題の中で微妙なバランスをとりながら、全体としての発展を実現させてきたのです。
 そのためには、「一党独裁」という体制は、一番現実的だったのではないかと思います。
 もし、中国が、いきなり西側先進国家のような政治体制をとっていたならば、有権者のレベルを考えると確実に衆愚政治となり、社会は分裂し、国全体にとっての最善を考えた政策は実現できず、結果として経済成長と国民生活水準の向上ははるかに遅れていたことでしょう。

 国には、その時点での国・国民の水準によって、各段階に適した政治体制というものがあるのではないかと思います。
 リー・クアンユーシンガポールや、朴正キ時代の韓国における開発独裁も、今では成功例として評価されるようになっています。(明治維新後や戦後の日本も同じパターンかも知れません)

 日本はすでにこの時代を過ぎ、より成熟した?民主主義の時代に入っているわけですが、すでに違う段階にある日本の視点で、現在の中国を判断することできないと思います。
 世界を一つのモノサシで図る、という乱暴な態度は、多くのアメリカ人にとってはなじみ深いものですが、あえてこれを真似する必要はありません。


 ボーゲル氏が語るように、中国も生活水準が上がり、右肩上がりの成長が止まってくれば、今の政治体制は変革を迫られるでしょう。そのときに、どのような体制に、どのように軟着陸させていくのか。また次の壮大な実験が待ち構えているわけです。


 一方で、成田空港が30年以上経っても完成しない、という日本の現状は異常としか言いようがありません。
 日本でも、「公」の意識をより強くし、全体の利益・発展を優先しダイナミックに政策を実行していくようにすることが必要かと思うのですが。