「富士通・東芝 携帯事業統合」のニュース。携帯電話での海外展開はいまさら可能なのか?

 先日の日経に、富士通東芝が携帯事業を統合して事業強化、海外進出を図るという記事がありました。富士通東芝側では、記事の内容を否定しているようです。

 両社の携帯事業の統合が実現すれば、国内出荷シェアでシャープに次ぐ2位の携帯メーカーになる見込み。高機能化する携帯端末の開発力を強化して海外市場への進出を図るねらいとみられる。
 富士通は、高齢者向けの「らくらくホン」などNTTドコモ向けに携帯電話を製造しており、09年度は黒字を確保した。一方、東芝の携帯事業はKDDIを中心に、ドコモやソフトバンクに供給しているが09年度は赤字で、携帯電話の国内生産から撤退し、中国の工場で高機能携帯(スマートフォン)の製造に集中するなど事業の建て直しを進めている。
 国内では年末にも、通信速度が固定電話の光回線に匹敵するとされる次世代携帯の通信方式「LTE」が年内から導入される予定。LTEは、日本のNTTドコモだけなく、米欧の主要通信会社も導入する共通の通信方式になる見通しで、国内市場に依存していた日本の携帯メーカーにとっては、共通化する世界市場に進出するチャンスになる一方で、国内市場だけで独自の進化を遂げた「ガラパゴス化」の技術から脱し、国際競争に耐えられる高機能端末の開発が求められる。


 携帯電話の世界では、日本メーカーは、技術的には世界最先端のものをいち早く商品化してきましたが、日本と言う特殊市場の中でどつきあいをしているうちに、グローバルな市場競争から、完全に脱落してしまいました。典型的な「ガラパゴス化」の例となっています。
 すでに、世界の携帯電話市場は成熟期に入っており、プレーヤーの数も淘汰されてきています。すでに、ノキアサムスン、LG、モトローラの寡占市場になってしまいました。新興市場はまだまだ成長していますが、ここで勝負できるのはコストリーダーシップが実現できるトップメーカーか、品質軽視でとてつもないコストを実現してしまう新興国のメーカーでしょう。
 白物家電のように、地域によってユーザーのライフスタイルが異なり、各地域向けに根本的に異なる商品を開発していかなければならない場合、グローバルプレーヤーによる市場の寡占が困難です。ですが、携帯電話の場合、基本的に同じプラットフォームでグローバル対応ができてしまいます(日本市場以外は)。

 日本メーカーは、唯一の生存場所である日本市場が縮小する中、生き延びるための「撤退戦」を戦っている状態です。引き潮で海から切り離され、だんだん干上がっていく水たまりに取り残されてしまった魚のようなものでしょうか。
 国内には、まだ多くのメーカーがひしめいていますが、これらは2-3社まで淘汰されたあと、後は安定した市場となり、ロングテール化していくのでしょう。しかし、その時の携帯電話事業は、今までのように研究開発費を投入し、次から次へと商品を投入するような花型事業ではなく、同じような商品をずっと売り続ける、現代のラジオのような位置づけとなっているでしょう。あるいはポケベルのように、数年後には消滅してしまうかも知れません。 

 この記事の中では、事業基盤を強化することにより、海外市場に進出するということも書かれていますが、すでに携帯電話という商品自体が時代遅れになってきている以上、今さらグローバル展開を考えるべき事業は「携帯電話」ではないだろうと思われます。
 通信方式が変わるから日本企業にチャンスが生まれるなどと言うのは、高度成長期の技術信仰者の発想であり、グローバル競争におけるポイントは、技術ではなくビジネスモデルである以上、東芝富士通のビジネスのやり方が変わらない限り、状況は何も変わりません。

 おそらく、富士通東芝の目論見としては、携帯電話事業は、規模を縮小させながら、何とかギリギリの収益を確保しつつソフトランディングさせていく、同時にそこで浮いた資源を携帯電話ではなく、次世代の情報端末の事業へ投入していく、ということだろうと思われます。
 しかし、次世代情報端末で勝負するということは、市場が流動的なうちにビジネスモデルをつくり、スタンダードを押さえるということであり、おそらく、かつての携帯電話事業以上に難しいチャレンジが要求されます。
 この難しい課題にどう取り組んでいくのか。
 日本メーカーの中で、1社くらいは、生き延びる会社が出てくることを願っています。