ANA 格安航空会社設立のニュース

 とうとうANAも格安航空会社に乗り出すそうです。

 全日本空輸が、国内に低コストで運営する格安航空会社(LCC)を新設し、関西国際空港を拠点に国際線と国内線の運航に乗り出す方向で検討に入ったことが19日、明らかになった。
 国際線は大手航空会社の半額程度、国内線は高速バス料金並みの片道1万円以下の運賃を目指す。急速に台頭するアジアのLCCに対抗する狙いがあり、早ければ来年度中にも運航を始めたい考えだ。
 新設する子会社は、ANAとは別ブランドとする案が有力で、国際線は中国などアジアを結ぶ路線が中心になると見られる。
 200人前後の中小型機を利用して短距離を中心に運航頻度を増やし、航空機の回転率を上げる一方、機内サービスは簡素化し、パイロットには外国人を雇用するなどして人件費を抑え、コスト削減を図る。
 施設利用料が安い簡素なLCC専用の旅客ターミナルビルの建設を検討するなど、LCCを積極的に誘致している関空に拠点を置く方針。
 国土交通省は5月にまとめた成長戦略で、日本へのアジアの観光客誘致にはLCCの参入促進が不可欠として、空港の着陸料引き下げや規制緩和などを進める方針を打ち出した。さらに関空の抜本再建策を検討する考えを示しており、全日空はLCCの事業化に向けた条件が整いつつあると判断した。


 ANAにとって、格安航空会社を始めても、収益が現在より良化することは考えにくいでしょう。飛行機の価格などの固定費用、燃料代などの変動コストが、基本的に同じである以上、売価を安くした分、収益が悪化するのは自明のことだと思われます。機内サービスの簡素化や外国人パイロットの雇用などの取り組みをしたとしても、おそらくこれら費用の総コストに占める割合はもともと少なく、決定的なファクターにはなりえないでしょう。
 ひとつひとつの項目別のコストをくらべれば、そこまでの価格差がつくはずがないのに、実際には大きな価格差がある。その理由は、トータルのビジネスモデルの違いにあるはずです。つまり、既存のANAのビジネスモデルに、格安航空会社のやり方を断片的に移植しても、トータルコストは下がらない。よって、収益が悪化するだけの結果になるはずです。
 それでは、なぜわざわざ格安航空にまで手を出すのでしょうか?

 上のニュース記事では、関空の再建策にからめて、格安航空への優遇策が期待できるから、という外部環境を挙げていますが、本来の目的は、内部環境、つまり自社のオペレーションや考え方を変えていくを狙っているのではないでしょうか?
 アジアでの近距離路線は、近年、確実に格安航空会社にシェアを奪われてきていると思いますし、今後もこの傾向が続いていくことははっきりしているでしょう。しかし、ANA本体としては、彼らに合わせて自社のオペレーションを変革していくことはきわめて難しいはずです。
 機内サービスのレベルを下げることは、「ブランド」を傷つけることになります。ANA知名度は日本以外では存在していないに等しく、まだこれからブランドを作るための投資を行っていこうとしているところです。ヨーロッパでも、日本のおもてなしをイメージさせる、他社とは異なるアプローチの宣伝訴求を目にします。まだブランドがないところで、サービスのレベルを下げてしまえば、ANA=単なる新参の安物航空会社という位置づけになってしまいます。
 また、パイロットに外国人を雇用することは、自社の既存パイロットとの待遇差や、組合との兼ね合いで困難でしょう。
 よって、別ブランドの格安航空会社を、グループ内に別会社としてつくることにより、自社ではできなかった改革の実験をゼロベースから行うことを狙っているのではないでしょうか?本体とは異なるモデルでのオペレーションの実験を通じ、試行錯誤で経験をつむことができ、それらを本体のオペレーションにも生かしていける可能性があります。またグループ全体の意識改革への直接的な刺激にもなります。そして、必要なときがくれば、こちらを本体として入れ替えてしまうこともできます。


 

 今まで日本では、AIR DOなど多くの格安航空会社が失敗してきましたが、ANAの格安航空会社は、既存事業でのハード面・ソフト面・人材面でのベースを活用できるため、成功の可能性ははるかに高いと思います。ポイントは、同じグループ内であっても、本体のやり方に邪魔されず、ゼロベースでの発想が許されるのか、自由なオペレーションができるのか、にかかっているでしょう。

 またこれは、多くの日本企業が生き残りのために取り組まざるを得なくなくなっている「新興市場」の攻略においても、他社にとってよき参考事例となることでしょう。