日経記事 『日産「Be-1」手がけた坂井氏 新興国向け製品デザインを支援』

 今日の日経に、以下の記事がありました。

 有名デザイナーの坂井直樹氏が代表を務める企画会社ウォーターデザインが、新興国向け製品のデザイン支援サービスに乗り出した。現地の市場調査を通じて各国に適した製品デザインをアドバイスする。新興国市場の開拓を急ぐ家電メーカーなどの需要を見込んでいる。
 翻訳事業のアラヤと組み、東南アジアやアフリカなど世界45言語に対応する。アラヤが現地で市場調査を実施し、ウォーターデザインが結果分析や製品デザインのコンセプトを作る。1件あたり500万円で請け負う。

 すでに複数メーカーと契約しており、5年以内に、年間5億円の売り上げを目指すとのことです。この記事を読んで、こういう仕事も事業として成り立つのか、と感心しました。

 私の仕事においても、今まで新商品の開発にあたって、市場調査やデザイン調査などはずいぶんと行ってきました。しかし、新興国を対象に考えると、ふつう外部業者には、人集めや集計などの調査の「実務」を委託することはあっても、製品デザインコンセプトまでを一貫して委託することはあまりありませんでした。製品デザインは、まず自社で何らかの仮説でもってコンセプト案をつくり、調査結果からそれを検証し、再度修正版をつくり、また評価を行っていく、という活動を繰り返してデザインを固めていくという形が普通です。
 その過程で、予想外のディテールに新たなポイントが発見されたりなど、生のフィードバックを直接受けることによって、通りいっぺんの報告書だけではわからないノウハウや知識が蓄積されていきます。
 例えば、東南アジアでは、シンガポール、マレーシア、タイという地続きの3カ国で見ても、グラフィックの色合いに対する評価はまるで異なります。今では調査をやるまでもなく、どういう傾向が出るか、予想がついています。中国では、90年代後半に、上海を中心に、デザインの好みは大きく変化しました。また、北京と上海、広州では明確に好みの違いがあります。
 こうした知識・ノウハウは、何度かの調査や、発売後の商品への実際のフィードバックを通して、社内では常識として蓄積されていきます。
 よって、安易に外部業者に依頼して、アウトプットをもらうよりも、たとえ手間はかかっても、自社のメンバーが現場の空気を吸って、フィードバックを直接肌で感じることが、長期的に商品企画における強みになってくるはずだと思います。

 一方で、昨今の、恐ろしく加速化しているグローバル競争の中で、すでに時間の勝負になっている新興国市場開拓に一気に取り組むには、こうした専門機関を活用することも時間を買うための手段だと思います。
 日本で、日本の会社と、ワンストップで、しかも日本語でやりとりができる、というのは、言語面で障壁のあることの多い多くの日本企業にとっては、大きなメリットです。
 500万円という金額も、内容次第ではありますが、ほぼ妥当な金額だと思います。
 
 ですが、最もこういうサービスを求めているのは、大手メーカーではなく、自社で調査を行うほどの十分なリソースやノウハウを持たない中小企業ではないかと思います。しかし、中小企業にとって、500万円と言う初期投資はあまり大きすぎるでしょう。ここに、また別なビジネスチャンスがあるかも知れません。
 

 ちなみに、上記のようなアプローチは、欧州などの成熟した市場には必ずしもあてはまりません。すでにデザインの価値基準が明確に確立している市場では、あらためて素人が調査をするのではなく、初めからその筋の専門家に依頼する方がはるかに効率的かつ的確なアウトプットが期待されるからです。
 
 成熟先進国市場でポイントになるのは、どうやって、その国のルール・価値観を知り、それを異なる価値観の人たちで構成されている自社の組織内で共有させられるか、にあります。成熟した国におけるルールは、それが当たり前すぎるからこそ、その国の人にはふだん意識されておらず、勿論それを明文化したものもありません。そういう必要性がないからです。それを自国の価値観と比較しながら、自国の人たちに分かる形で整理し体系化していく。ここに先進国における商品企画の最大のキモがあります。
 つまり、新興国で戦うためには、相手の国の事情を的確に知ることがポイントなのに対し、先進国で勝負するためのポイントは、自社の中にある壁を崩すところにあるのです。