日経ビジネス特集記事 「サムスン 最強の秘密」

 日経ビジネスの7月5日号に、サムスンの特集記事がありました。
 この記事では、「逆張りの設備投資」や、新興国向けのマーケティング、あるいは「リバースエンジニアリング」など、よく紹介されることの多いテーマではなく、「人材活用」や「企業風土」といったソフトな切り口からサムスン電子を分析しています。 
 内容的には、サムスンの社員が、社内でいかに厳しい生存競争を戦っているか、また同時に企業としてのチームワークと忠誠心を高めるために、どのような施策を実施しているのか、ということを紹介しています。
 ここで書かれていることは、我々も通常耳にしていることと同じです。ビジネス上でのポイントは、サムスンの社員が、恐怖政治で生存競争にさらされ、がむしゃらに頑張ってきた結果として、すでにあらゆる職能において、日本企業のレベルを超えてしまってきているということです。例えば、サムスンに部品を供給しているサプライヤーから聞いても、多くの日本企業よりも、サムスンがより勉強しており、価格ネゴ力が強いと言われています。
 
 この記事の結論では、「日本企業が学べることとしては、経営理念に立ち返ることだ」と述べています。
 かつて、日本企業が高度成長期に躍進した背景には、生き残りのため必死で働かなければならないという環境下で、明確な経営理念をもとにして、社員の力を一つのベクトルへ向け最大限発揮させる仕組みが存在していました。
 サムスンが、こうしたかつての日本企業のスタイルを学び、消化し、自分の風土として昇華させている間に、日本企業は反対に、かつての自らの強みを忘れてしまったのではないだろうか。日本企業は、もう一度、かつての自らの強みを見直すべきではないだろうか、というのがこの記事での結論のようです。

 私はこの結論には違和感を感じています。
 日本企業には、経営理念を単なるお題目ではなく、組織の末端まで、風土にしてしまっているパナソニックのような企業があります。経営理念とその徹底度合いから見れば、サムスンパナソニックにははるかに及ばないと思います。しかし、サムスンの経営状況は、日系メーカーが束になっても届かないレベルまで先を行っているのです。経営理念による社員の能力の活用は、ひとつのファクターではあっても、決定的な要因ではないと思われます。
 むしろ、サムスンにとって、必要となっているのは、カリスマ創業者一族と恐怖政治によって成し遂げられた急成長時代が終わったあと、どうやってこの緊張感を継続的に維持できる仕組みを作り出せるのか、にあると思います。
 三代目のイ・ジェヨン氏がどこまでカリスマ性を維持できるのかは未知数です。普通に考えれば、1代目、2代目のようなカリスマ性にあふれたトップとは異なる経営スタイルを作り出していかねばならないでしょう。サムスンにとって経営理念の徹底が本当に求められていくのは、むしろこれからなのではないでしょうか。



 また、この記事では「サムスングループ」と、「サムスン電子」が混同して述べられています。おそらく、現在ではサムスン電子が、サムスングループを圧倒的に代表する企業となっているのでしょう。ですが、私が韓国に留学していた1989年当時は、サムスングループを代表する企業で、学生の就職先人気No.1だったのは、サムスン電子ではなく、商社部門である「三星物産」でした。私の身近な知人にもサムスンに就職した人がいましたが、三星物産で、アパレルのマーチャンダイザーなどをやっていました。当時の韓国では、電子・電器関係よりも、アパレルの方が花形だったように思います。

 私も、当時、就職活動の一環で、サムスンジャパンの面接を受けにいったことがあります。当時、霞が関ビルにあったサムスンジャパンの事務所を訪問し、簡単な韓国語の試験も受けました。面接を受けた会議室の中にも、売り物の衣類がぶらさがっており、アパレル関係の仕事がメインなのだなと思った記憶があります。今からは隔世の感があります。

 その後、私が日本メーカーからの海外研修生として、上海に留学していたときにも、サムスン電子から派遣留学に来ている人がおり、ずいぶんお世話になりました。上海に来る前はビデオの輸出をやっていたということでしたが、実にしっかりとした人で、私より社会経験も多かったので、兄貴として面倒を見て頂きました。当時、SAMSUNのロゴマークが今のもの(傾いた楕円)に変更になり、新しい名刺を「ロゴガパッキョソヨー」と言いながら渡されていたのを思い出します。
 みなさん今ではどうされているのでしょうか。