「鉄屑ロマン」 増井重紀著 を読む

 正月休みに読んだ本です。

 著者は、商社マンから、アメリカの大手鉄屑会社の経営者となり、世界を股にかけ、鉄スクラップ一筋のビジネス人生を送ってきたという方です。引退したビジネスマンが、自慢話主体の自伝や体験談を本にすることはよくありますが、この本はそれらとは一味違って、なかなか面白い本です。
 まずもって、文章が読みやすい。素人とは思えない文章のうまさです。
 表紙や、本の後半に紹介されているさまざまな鉄屑の写真も非常に印象的です。
 扉に出てくる著者の後ろ姿の写真。「Sammy Masui」と名前を書かれたヘルメットが、鉄スクラップという泥臭いビジネスの世界を象徴しているのでしょう。
 これらの写真は、著者の息子さんが撮影したものとのことです。 
 本屋さんでこの本を手にとり、ペラペラとページをめくった段階で、これらの印象的な写真と斬新な装丁デザインに目をとられ、単なる自伝ではない、一味違うものを感じたのでした。



 「製鉄」と言っても、鉄鉱石とコークスで大規模に製鉄する「高炉」に関しては、普段から多くの情報が流れています。鉄鉱石価格の動向など常にニュースとして目にしますし、韓国の浦項製鉄や、上海の宝山製鉄所の建設など、国の威信をかけたプロジェクトとして、多くの小説やドラマなどでも紹介されてきています。
 一方で、スクラップを原料とする「電炉」に関しては、イマイチ表舞台に出ることが少ないようです。昨今は資源の「リサイクル」ということがずいぶんと脚光を浴びるようになりましたが、その代表事例である「鉄スクラップ」と言うものが、どのような業者によって、どのように流通されているのかについては、私はこの本を読むまでまったく知りませんでした。
 この本では、著者の経験した具体的なトピックを通じて、「鉄スクラップ」業界の生々しい姿を知ることができます。

 アメリカというアウェーの環境で会社内の人心を掌握する苦労や、ロビー活動によってロスアンゼルス市の決定をひっくり返す話など、次から次へと繰り広げられる著者のビジネス冒険譚は、本1冊では語り切れないほどの内容です。
 やはり、その業界で「世界NO.1」を自負するプロの話というのは面白いものです。