「戦場の掟 BIG BOY RULES」 Steve Fainaru著

 GW休みは、いろいろ読書をしようと思っていたのですが、中途半端に仕事のフォローをしたりしているうちに、あっという間に終わってしまいました。

 この本は、2008年度のピューリッツァー賞を受賞した本だそうで、帯のコピーには、「血が流れ、肉片が焦げ、飛び散る・・・・・刮目せよ。これが超弩級・戦争ノンフィクションだ!!」とあります。ここまであおられると思わず買わずにはいられないでしょう。

 さて、読んでみると、まず内容を云々する前に、翻訳がひどすぎて、読み続けるのが非常に苦痛でした。
 いちおう日本語にはなっているのですが、機械翻訳か、という感じで、砂を噛んでいるような文章が続きます。
 おそらく、こうした本を、日本人がすっとわかるような日本語に翻訳するためには、大幅な加筆や再構成が必要なのでしょう。

 せっかく1,800円も出して買った本なので、なんとか我慢して最後まで読んだのですが、残念ながら読書を「楽しむ」ことはできませんでした。


 内容は、イラクで活動する「民間軍事会社」に関するエピソードです。イラクでは、正規軍以外に、多くの民間軍事会社が設立され、軍事活動を請け負ってきたそうです。民間の会社が成長した背景には、死傷者が出ても、公式な戦争の死傷者数に含めないで済むこと、正規軍にくらべ装備も軽くコストが安上がりであること、などの理由があるようです。
 物資を運ぶトラックや人を護衛するだけでなく、イタリア軍や日本の自衛隊の護衛!も彼らが行っていたそうです。
 世の中では、「民営化」による効率化がはやりですが、イラクでは軍隊まで民営化されてしまっていたのです。

 この本を読んで感じるのは、個々のアメリカ人に対する、家族や友人とのエピソードなどのきめ細かい感情の描写と、はたやモノにように殺されるイラク人に対する描写との落差です。
 どちらの国の人間でもない私からすると、アメリカ人に対する描写は、家族間の出来事や細かい感情など、どうでもよいような内容まで長々と書かれているように感じますし、一方でイラク人は、ほとんど人間として描かれていないように感じます。もちろんこの本のテーマは、傭兵として働き死んだアメリカ人に焦点をあてることでしょうから、これで良いのでしょうが、いかにもアメリカ人向けの本だよな、という感じです。


 また、この本を読む限り、アメリカによるイラク占領政策がうまくいかないのは当然だと思われます。民間軍事会社を取り締まるルールがないため、イラク人は、ただそこにいたというだけで、誰彼となく撃ち殺されても、罪を問われることもない、という状況がおきていたのです。
 アメリカ的な、大雑把に基本ルールだけで物事を進めていくやり方は、うまくいくときと、うまくいかないときの落差が大きいと感じます。コンセプトと基本方針だけでだけで、物事が進んでいってしまうので、日本人の感覚から言うと、これで大丈夫かと、不安で空恐ろしくなることがあります。
 日本的なやり方であったなら、大きなルールが整っていなくとも、現場レベルで随時状況に合わせ調整が行われていくので、ここまで現場が破たんしてしまうことはないのではないかと思われます。

戦場の掟

戦場の掟