「プレゼンテーションzenデザイン」 Garr Reynolds著

 先週の日曜に京都に行った際、ジュンク堂書店に平積みされていたのを見て、2400円もする本でしたが、きれいなビジュアル例もたくさん載っているし、何か参考になるかなと思い買ってきました。

 「プレゼンテーションzen」という、以前よく本屋で見かけた、平べったい石が積み重なった写真が表紙になっている本の続編です。読んでみると、やはり第一作の「プレゼンテーションzen」も読んだおいた方がよいようなので、今日、本屋で第一作も立ち読みしてきました。 
 昨今、パワーポイントを使ったダメなプレゼンが氾濫していますが、それらはどうすれば改善できるのか、それを日本人にも馴染みのある「zen」の考え方と対比させながら説明していきます。
 日本の家屋や庭園、生け花、お弁当などにまで伝統的に存在している優れたデザインのアプローチ − 空間を重視する「間」や、無駄のない「シンプルさ」、腹八分の「抑制」などといった考え方 − が、プレゼンになるとまったく忘れ去られ、その正反対に情報をごちゃごちゃつめこんだメッセージの伝わりにくいものばかりになっている、という指摘は、話の導入としてはわかりやすく、読者を引き込ませるものです。
 
 私も、マーケティングをメインにしている仕事上、商品説明などのプレゼンをすることは多いですし、他のメンバーのプレゼンを聞くことも多くあります。しかし、残念ながら日本では、ほとんどのプレゼン(おそらく9割以上)は、真剣にお客様に聞いてもらうことを意識しているとは思えない、と感じています。
 私の場合、お客様が海外であるため、今は英語でプレゼンすることが多いのですが(昔、中国にいたときは中国語でした)、不慣れな外国語で説明するがゆえに、わかりやすいプレゼンを突き詰めていくことは不可欠です。
 基本的に下手な英語のプレゼンなど、誰も聞きたくはありません(反対の立場で、下手な日本語のプレゼンを聞かされることがどれだけ苦痛か想像してみてください)。よって、何とか話を聞いてもらうためには、違う文化やバックグラウンドを持った人でも誤解されることのないように、できるだけストーリーとメッセージをシンプルにし、わかりやすいビジュアルを使うことに加えて、身振り手振りや表情、さらにはステージを歩き回ったり、小道具を使ったりと、あらゆるコミュニケーション手段の助けを借りて表現することが必要でした。


 一般に、欧米の人達にはプレゼンが上手な人が多いと感じます。それを専門にしている人達ではなくても、決してインテリではない、現場で作業をしている人たちであっても、実に自然に、お客様とのコミュニケーションがとれたプレゼンをこなします。
 中国の人達も、日本の人たちとくらべて非常にプレゼンは上手です。中国は、小さいときからリーダーを選抜し、赤いマフラーをさせて一般人と区別して、常日頃人の上に立つ訓練をする、というエリート教育の国ですので、インテリほどプレゼンが上手です。欧米の人たちのしゃべりが自然体を旨とするのに対して、中国のそれは、ちょっと大仰しいところが鼻につくこともあるのですが。
 一方で、日本の人たちのプレゼンは、聴衆の存在を無視していることが多いのが特徴です。双方向のコミュニケーションではなく、一方的な伝達になっていることが多いと思います。インテリ層やリーダー層であってもそうであるのが日本の特徴です。
 これは、プレゼンをコミュニケーションの手段とはとらえず、あくまで形式的なイベント、あるいは、儀礼的なステップ、ととらえ、実際のコミュニケーションは、説明を聞くより、パワーポイントに詰め込んだ情報を読んでもらうか、あるいはそのあとのセッションでディスカッションするか、という構えがあるからではないかと思います。

 著者であるガー・レイノル氏は、アメリカ生まれなのに、なぜか大阪の住友電工に勤務し、その後アップル社に移り、今は関西外大の准教授 兼 その他もろもろの活動を行っているそうです。アップル時代は、かの有名なスティーブ・ジョブスのプレゼンづくりなどにもかかわり、ガイ・カワサキ氏とも親交が深いようです。
 日本に住みながら、日本の文化を引き合いにして、世界の人たちに対してビジュアルコミュニケーションについて発信をしている、という立ち位置が面白いところです。
 ちなみに、著者のプレゼンをyoutubeで見ることができます。さすがプレゼンを職業にしているだけあって、これを見れば、本を読むよりも手っ取りばやく彼のストーリーのポイントがわかります。

http://www.youtube.com/watch?v=DZ2vtQCESpk

 日本の場合、パワーポイントのスライドには情報量を多く詰め込むべき、という一般概念があるため、どうしても束縛から外れて自由なプレゼンをつくるのには躊躇してしまうところがあります。この本を読むと、やはり素直に、お客様にとってわかりやすいプレゼンをとことん突き詰めてみよう、という気になります。次のプレゼンの機会が待ち遠しくなります。
 
 ちなみに、この本で残念なのは、タイポグラフィーの重要さを説明しているにもかかわらず、P271に挿入されている最後のスライド(日英併記)の日本語のフォントが、日本語としてバランスがとれておらず、違和感があることです。
 "プロとアマチュアを分けるものは、どんな些細なこともゆるがせにしない姿勢である。コンテンツを知り尽くし、自分の発言内容を完全に把握できているのなら、そうした事実を裏切るようなタイポグラフィーをスクリーンに映し出すべきでない"。
 この著者自らの言葉には、「日本語以外」という注釈はないはずなのですが。