黒木亮著 「エネルギー」を読む

 夏休み中に、沖縄のリゾートで、黒木亮著「エネルギー」という本を読みました。ずいぶん前にアマゾンで中古本を買ったのですが、上・下2巻の本で結構分量があるので、なかなかいざ読もうと言う気力が出ず、ずっと本棚に置きっぱなしになっていました。今回まとまった休みで、やっと読むことができました。

 サハリンの石油・ガスプロジェクト、イランでの石油採掘権益、商品先物取引、という3本立てのストーリーに、環境NGOをも並行させて、エネルギーにまつわるビジネスの現状を綴っていきます。

 この中で、メインになっているのは、サハリンのプロジェクトです。
 日本のとなりのサハリンで、何やら開発プロジェクトが進んでいることは聞いていましたが、関西に住んでいるとはるか遠い場所の話のようで、具体的にどんなプロジェクトなのかということについては全く知りませんでした。北海道にいれば、新聞のニュースなどで詳細に報道されていたはずなので、何がおきていたのかは自然に耳に入っていたのでしょう。

この本を読んでみると、サハリンのプロジェクトは、結構すごいプロジェクトです。サハリンの北の方で海上油田・ガス田を掘削し、そこからパイプラインをサハリンの南端のアニア湾まで引き、さらにそこにLNGプラントまで作り、日本や韓国・北米などに輸出しよう、というもので、既に現在工事は完成し、2009年から稼働しているようです。
 稚内と言えば、日本の北のはずれで、それより北には何もない、というイメージなのですが、そのさらに北の方に、LNGプラントなどというものができて、そこからタンカー船が、日本とをガンガン往復しているというのは凄い話です。


 

 この本を読むと、こうしたプロジェクトがどのような経緯と力学で進んでいくのか、ということがイメージできます。専門用語や背景なども、本の中で何度も繰り返し説明されていますので、勉強にもなります(本を読んで分かった気になったものは、そのあとすぐに忘れてしまうのですが)。ただし、文体より内容勝負、という本ですので、文章はあまり読みやすくはありません。ストーリーも部分的には面白いところもありますが、全体に淡々とストーリーを語っていくので、思わず引き込まれるようなものではありません。商品取引のパートで出てくる日本人辣腕トレーダーの、トレーダーになっていった経歴や、3つのストーリーの絡み合いなど、後半にもっといろいろ展開があると思っていたのに、結局プロジェクトの流れを追っただけで、かなりあっさりと終わってしまいました。もっとドラマティックに読ませるストーリーにできたのにな、と思います。

 ちなみに、メインで紹介されていた「サハリン2」プロジェクトの開発費用は、約2兆円だそうです。大きい金額のように思えますが、京都と門真をつないでいる「第2京阪」道路の投資額は、なんと1兆円だそうですので、何かバランスがとれない感じがします。第2京阪の場合、土地購入の費用が大半を占めているからなのでしょうか?サハリンのパイプラインの土地購入費用など限りなくゼロでしょうから。