「昭和史」 〜 中国は、戦前の日本と同じ道を進んでいる

 
 ここのところ、半藤一利著の「昭和史」という長い本を少しづつ読んでいます。
 日本がどうやって戦争へと進んでいったのか、断片的な歴史上の出来事だけではなく、その背景に流れるダイナミズムはいったい何だったのかを、感覚的に掴みたいと思っています。そこに、現代日本の、政治だけでなく企業活動にも共通する課題と、その反面教師としての対処法が浮き彫りになってくると思うからです。
 
 さて、最近、尖閣諸島問題が熱い話題になっています。
 多くの方が感じられているように、私も日本政府の対応のあまりのふがいなさには、あきれて言葉もありません。

 それよりもショックだったのは、戦後長く続いたアメリカ中心の平和の時代(パックスアメリカーナ)があっけなく終わり、東アジアは、中国・アメリカの2極が力を競い合う帝国主義の時代に逆戻りしてしまったことです。
 日本が中国の圧力に負け、国内の司法の独立を断念し、船長を釈放した2010年9月25日は、歴史の転換期として後世に記されるでしょう。
 我々はとうとう平和ボケしたから夢の世界から、否応なしに現実の厳しい世界へ引き戻されてしまったのです。

 現時点では、中国国民がみな反日で染まっているわけでもないですし、中国が全面的に日本と戦争をしようとしているわけでもないでしょうが、歴史のダイナミズムという点で見ると、明らかに今、パワーバランスの転換が起きていると思います。


 これから中国は、軍事的・経済的・外交的な力を武器に日本の権益をじわじわと侵食してくることでしょう。それにより、日本は都度譲歩を余儀なくされ、それをふがいなく思う国民の世論により、政権の支持率は失墜、さらにそうした政治の不安定さをますます中国に突かれ譲歩する、という悪循環に入ることになるでしょう。

 今後の日本は、その反動として過度に右側に方向転換することと思います。まず、憲法9条の見直しが急務となり、核武装すべし、との意見も現実を帯びてくることと思います。ただし、こうした方向展開は、国内外ともに、多くの激しい議論を巻き起こすことになり、混乱が続くことになるでしょう。



 ここで、思うのは、現在の中国は、戦前の日本に驚くほど似ているということです。

 日本は、明治維新後、不平等条約に苦しみ、ロシアの圧力におびえながら、刻苦して富国強兵に務め、日露戦争後、やっと強国として認められました。そこで今まで真似をしてきた西欧諸国が過去からやってきたように、自国の権益を主張して見たところ、今度は、列強から総スカンを食らってしまいます。日本が強くなることによって、西欧列強間の力のバランスが崩れるのに加え、日本と言う異質な価値観をもつ国が強くなるのに対する違和感・嫌悪感・拒否感がありました。さらに決定的だったのは、日本が強国になった時には、世界はすでに日本が学んできた帝国主義の時代から次の時代へと転換しつつあったということです。しかし、日本はそれを理解できず、他国は理不尽に日本を迫害していると考え、被害者意識の裏返しとして、自国さえ良ければよい、という姿勢で、戦争に突き進んでいきます。
 その原動力にあったのは、世論としての、強気な外交を要求する国民の声でした。世界を知らない未熟で単純な国民の声を、商業主義のマスコミがあおり、その勢いに押される形で、政府は戦争に走って行ったわけです。


 この話の「日本」を「中国」に入れ替えると、まさに現在の中国の状況になります。

 中国は、19世紀以来、列強に侵食され、すでに150年以上も耐え忍んできたわけですが、80年代からの共産党による「開発独裁」政策が成功し、やっと世界2位のGDPを誇る大国に成りあがることができました。中国としては、やっと大国になったのだからと、今まで他の大国がやってきたのを見てきたように、自国の権益を主張し始めます。しかし、他の国から見ると、中国は世界のバランスを崩す存在であり、西側世界の価値観を共有しない、異質で危険な存在です。さらに、中国が当たり前のように行っているあからさまな「力」による外交は、19世紀の帝国主義時代こそ普通であったにせよ、この21世紀の世界では、違和感のあるものです。しかし、中国の大多数の国民にはこのことがわかりません。中国は善良で友好的な国であり、周囲の国にいじめられている被害者だと、本気で信じているのです。そうした世論に押されて、政府はますます強硬な外交手段に走っていくのです。

 自ら問題を仕掛け、それに対する相手の謝罪を要求し、力でねじふせて、権益を確保してしまう、という今回の中国のやり方は、実は戦前の日本のやり方とまったく同じです。上海事変、盧溝橋事件、天津事件、すべてこのパターンです。
 半藤一利著の「昭和史」を読んでいると、現在の中国の状況がよく見えてくるように思えます。


 さて、これから中国はどうなるのでしょうか?
 戦前の日本のように無謀にもアメリカに戦争を仕掛けて自滅するのでしょうか?
 それとも狡猾に着実に権益を拡大していくのでしょうか?

 資源を止められれば死ぬしかなかった日本と違い、中国ほどの国力があれば、たいていの国とはガチンコ勝負はできてしまうでしょう。誰も中国は止められないのでしょうか?

 日本と違って中国の抱える難しさは、中国と言う巨大な国をコントロールすることです。日本と言う国は、政権が変わったりという変動があっても、ひとつの国としてはきわめて安定しており、国が分裂してしまうような危険は少ないでしょう。

 一方、中国で、政権が変わっても、国を維持できるかどうかは疑問です。ひとつの国を維持する、ということ自体が非常に難易度が高く、内政においては、非常に繊細なバランスが要求されます。下手をすると、国がバラバラに崩壊してしまうようなベクトルをいつも抱えているということ、これがどう働くのかが、つまり外交的な要因よりも、内政面がポイントのように思えるのです。