イ・ジェヨン(이재용/李在鎔)氏 社長就任でサムスン電子はどうなるのか?

  
 サムスン電子のイ・ゴニ会長の長男であるイ・ジェヨン氏(42歳)が、とうとう社長に就任したそうです。ただし、社長と言ってもCOOであり、CEOは今回副会長となったチェ・ジソン(崔志成)氏が務めるそうですので、実質的には、チェ・ジソン氏が中心となり、経営を行っていくのでしょう。
 サムスンはいままでイ・ゴニ会長というカリスマ経営者のもとで、奇跡的な成長を実現してきたわけですが、イ・ビョンチョル氏以来、今回で3代目となる世襲体制は、今後もうまくいくのでしょうか?

 サムスンの躍進については、このブログでいろいろ書いてきましたが、その強みは以下にまとめられるでしょう。


1.市場のトレンドを敏感につかみ、お客様・市場に素直に判断を行う 【市場志向】 
〜ものづくりのしやすさや品質の確保のしやすさ、といった内部事情より、お客様が見て格好のよいデザイン、わかりやすいマーケティングを素直に追求する。


2.戦略を決め、思い切った投資をスピーディーに決断する 【経営戦略】 
〜これなら勝てる、と判断すれば、不況下であろうと、あえて大規模な投資に踏み切り、一気に勝負に出る。


3.決めた戦略を、とことんやりきる。【実行力】 
〜目標達成のため、毎週のように、トップ自らがその進捗をチェックし、何としてもやらせる。社員は任務を実行できなければクビ、業績良ければ昇進。


 かつて戦略目標がはっきりしていた時代の日本企業は、戦略の切れ味などなくとも、一丸となってひたすら頑張ってやる、という「実行力」の強さが競争力になっていました。また、多くのアメリカの企業は、実行力は弱くとも、自らの事業をユニークなポジショニングで差別化するという「経営戦略」面でのコンセプトの優位性が競争力にになっています。
 サムスンは、明確で切れ味のよい「経営戦略」と、海兵隊のようにとことんやりきる「実行力」、その両方がセットになっているために、無敵なのです。


 それでは、この無敵サムスンに弱点はないかというと、少なくとも理論的には、弱点はあります。それは上にあげた強みの裏返しです。

1.大きな戦略事業でしか勝てない
 事業をトップから末端までの大きな一つのサイクルで高速にまわしていくためには、非常に強い力が必要です。トップマネージメントには、このサイクルに日々どっぷりと漬かって、日々自ら手を汚し、末端までを叱咤激励し、サイクルを力技でまわし続けていくことが要求されます。よって、全社的にこうした戦略的な事業をまわせるのは、いくつかの限られた分野だけに限られてしまうのです。
 多くの自立した事業を分権的に経営し、全社レベルでポートフォリオ的に管理していくやり方とは正反対のモデルなのです。
 よって、今までのような半導体、パネル、携帯電話などの主要事業に絞ったやり方から、事業の拡大のためカテゴリーを広げていくにつれ、トップのコミットが減少し、強みが発揮できなくなってくる恐れがあります。
 実際、サムスンは、戦略的に力を入れている主力事業以外は、必ずしも勝てているわけではありません。例えば、白物家電は赤字だと聞いています。


2.創造性を高められない
 さらなる課題は、どうやって「創造性」を高めるかです。今までサムスンが成功してきた業界は、技術進化が明確で、次に何をやれば勝てるかがわかりやすかったカテゴリーが多かったのです。技術開発面でも先行する他メーカーを追い抜きつつある今、次に何をやるべきなのかを考えるには、クリエイティビティが必要になってきます。しかし、今のサムスンの中央集権・トップダウンの軍隊型組織では、自由な発想でクリエイティビティを発揮することは困難です。また、明確な韓国・韓国人主体のマネージメントも、世界の叡智を集め、イノベーションを湧きあがらせるためには障害になります。


3.絶対カリスマ経営者が不可欠
 また、こうした力技の経営は、カリスマオーナー経営者がいるからできるのです。サラリーマン社長では、ここまでハイリスクな決断を、関係者に説得することは困難です。また、幹部社員に対して、有無を言わさない信賞必罰を実施することも困難です。
 若く実績も不足しているイ・ジェヨン社長には、今までイ・ゴニ氏がやってきたような、ハイリスクの経営判断を説得し、やらせきるだけの力があるのでしょうか?


 今のところサムスンは、主力事業への集中戦略が成功し、無敵を誇っていますが、これから、事業カテゴリーの拡大、先行他社の不在、カリスマ創業者の不在、という3重苦を背負うことになります。
 果たして、新たな状況に適した、次のフェーズの経営スタイルに脱皮することができるのでしょうか? しかし、何かを変えるということは、今までの何らかの強みを否定することに直結してしまいます。
 今後もサムスンが長期的に継続した成長を続けるには、いつまでの今のようなハイリスク・ハイリターンのバクチ的な不安定な事業に頼っているわけにはいきません。「ハイリスク」である以上、確率的にも、どこかで破綻することは避けられないからです。今までのような高い成長性がなくとも、確実に収益をあげられる事業を多く持ち、企業全体としてバランスをとっていく経営スタイルに、どこかで変えていく必要があるでしょう。イ・ジェヨン氏のような、カリスマ性には欠ける、普通な経営者がトップにつくにあたっては、経営スタイルもこのようなより普通な形に変えていかねばならないのだと思います。


 カリスマオーナー イ・ゴニ氏が重石として健在で、同じくカリスマサラリーマン経営者である チェ・ジソン氏が実質トップとして力技の経営を行い、携帯やTVでの高収益が続いている今のうちに、経営スタイルの変革とイ・ジェヨン氏の実績づくりを並行して行っていく必要があるのでしょう。



 今まさに北朝鮮でも、金正日氏から金正恩氏への国家トップの世襲を行おうとしています。
 南北それぞれの世襲は成功するのか? その行方を見ていきましょう。



  ちなみに、この金正恩氏は、昔懐かしい「こまわり君」に似ています→