中国映画 「戦場のレクイエム」を観た


 先日、WOWOWで、「戦場のレクイエム」という中国の戦争映画をやっていたので、珍しいなと思い録画してあったのですが、今日、やっと時間ができて観ることができました。
 中国の国共内戦の映画というのは、昔からプロパガンダ的なものはたくさんあり、私も中国にいたときにテレビで見た記憶があります。人民解放軍が全面協力し、戦車や飛行機が山ほど登場する大スペクタル映画のようなものもありましたが、共産党軍があまりに英雄的に勝つものばかりで、あまり興味は持てませんでした。
 この「戦場のレクイエム」は、こうしたかつてのプロパガンダ的な映画とは違っていて、「戦闘シーンを今風に生々しく表現していること」、「ストーリーが戦争礼賛・共産党礼賛一辺倒ではないこと」が特徴です。

 いわば、国共内戦という現代史における身内の出来事が、やっと一歩引いたところから、「娯楽作品」として表現できる時代が来たということだと思います。


 第2次大戦に勝ったアメリカでは、第2次大戦を題材にした戦争映画は、早くから多く作られてきました。その中には、戦争の意味に疑問を投げかける「社会派」のものもありましたが、多くは、血沸き肉踊る激しい戦争シーンが中心の「娯楽作品」でした。自分の国が戦場になったわけでもなく、はるか遠い世界の反対側で「勝ち戦」を戦ったアメリカにとって、第2次大戦の映画には常にどことなく明るいトーンが流れていました。


 しかし、韓国や中国では、プロパガンダ映画以外に、戦争を題材にする「娯楽映画」が作られることは、多くはありませんでした。その背景には、身内同士が身の回りで戦った戦争があまりに悲惨であり、英雄的なストーリーで語れるようなものではなかった、ということがあります。
 以前、日本の大学時代、韓国から来られていた先生がいました。確か韓国語の授業の最後だったと思いますが、「何でも質問をして下さい」とのことだったので、私は無邪気に「朝鮮戦争のことを知りたいのですが」と質問したところ、「思い出すのが辛いので何も話したくありません」と断られたことがあります。自分の国が戦場となり、身内同士が戦った戦争の傷跡は大きいのだと感じたものでした。
 朝鮮戦争をハリウッド的な娯楽作品にしたてヒットしたのが、2004年の「ブラザーフッド 태극기 휘날리며」です。「プライベートライアン」以降主流になったリアルで生々しい戦闘シーンに、韓国人の好きな兄弟愛の話を織り込んだこの映画が出来るまで、休戦から50年かかっています。
 それ以前にも、ベトナム戦争を題材にした「ホワイトバッジ 하얀 전쟁」(アン・ソンギ主演/1993年)などの映画はありましたが、主人公がひたすら苦悩していて、娯楽映画としてはどうしようもない暗さが漂っていました。「ブラザーフッド」でも、戦争で兄弟が理不尽に引き裂かれていく姿には、重く悲しいものはありますが、それ以上に、激しい戦闘シーンでお客さんをひき付けたいという娯楽性を強く感じます。
 おそらく、「ブラザーフッド」が20年前に作られることはなかったでしょう。多くの人が朝鮮戦争の記憶を、人それぞれに生々しく引きずっていた当時では、朝鮮戦争を題材にした映画は人々に痛みと反発を引き起こし、単純な娯楽作品として受け入れられることはなかったことと思います。正直、私自身、この「ブラザーフッド」が、朝鮮戦争を舞台にした映画だと聞いたとき、そんな映画を作ってよいのか、と違和感を感じたものです(私の感覚は韓国に留学していた20年前で止まっていますので)。
 直接戦争の記憶がある世代は、すでに60代以上となり、現代の多くの韓国人にとって、朝鮮戦争は、歴史の一部でしかないはずです。


 中国でも同じことが起こってきたのでしょう。 
 「戦場のレクイエム」の冒頭で展開される戦闘シーンは、明らかにプライベートライアンの影響を受けた娯楽性を追求したものだと思います。また、全体のストーリーも、戦意高揚ではなく、むしろ戦争の理不尽さに焦点をあてたものです。
 国共内戦から、すでに60年。改革開放以後に育った若者にとっては、「淮海戦役」など歴史の教科書の1ページでしかなく、国民党と共産党が戦って共産党が勝ったことなど、歴史の必然としか捉えられていないでしょう。

 中国や韓国で、国共内戦朝鮮戦争を題材にした娯楽戦争映画が作られヒットしている。こんなことは、60年代〜70年代には想像することすらできなかったはずです。何といっても東アジアは幸せな時代に入っているのです。


 ちなみに、この映画の監督である馮小剛(FEN XIAOGANG)氏は、ヒットメーカーのようで、最近は「唐山大地震」というスペクタル映画?を作ったそうです。「唐山大地震」も、70年代に地震で都市が丸ごと一つ壊滅したという中国有数の大惨事でしたが、今では、娯楽作品にできるような軽い題材になってきたのでしょう。


 また、北海道を舞台にして中国でヒットした「非誠勿擾」というラブコメもこの人が監督しています。この映画がヒットしたおかげで、阿寒などの道東には、中国人観光客が大量に押しかけることになりました。
 不景気の北海道でお金を落としてくれるのは中国人観光客くらいですが、世の中は変わったものです。私が子供の頃に、北海道にアジアから観光客が来るなど想像すらできなかったのですが。