「朝鮮半島 201Z年」 鈴置高史著 を読む

 数ヶ月前から本屋に並んでいて気になっていたのですが、このお盆に、アマゾンの中古本を買って読みました。


 著者は、長年、日経の記者をされていて、87-92年にはソウルで特派員をされていたとのこと。ちょうど私がソウルに留学していたときに、すでに特派員として活躍されていたわけで、ずいぶんと長いキャリアをお持ちです。


 東アジア情勢に関する豊富な経験に裏打ちされ、この本はフィックションでありながらも、あたかもノンフィクションを読んでいるかのような、生々しさと臨場感を持って迫ってきます。書かれているエピソードは、みなまさに実際に起きてきそうなことばかりで、どんどん引きこまれれていきます。正直、読んでいるうちに、現実とフィックションの区別がわからなくなってきました。


 この小説には、冒険活劇も、心理描写も、戦争シーンも、恋愛シーンも、エンターテイメント小説としての定番は何もありません。

 あるのは、架空の「新聞記事」からの引用と、限られた登場人物の「会話シーン」だけ、という実に変わった小説です。創作としての「小説」というより、ひとつの「シミュレーションレポート」を読んでいる感じがしました。



 内容は、アメリカの影響力低下と、中国の台頭によって、近い将来、韓国がアメリカの勢力圏から、中国の勢力圏に移っていく姿を描いています。

 韓国の左寄りで非現実的な国内政治状況、日本の無能と無策、アメリカの低下する東アジアへのアテンション、計算づくの行動で着実に陣地を固めていく中国、そうした東アジア情勢の中で、北朝鮮の血迷った行動が引き起こした米日との戦争目前の緊張状態が契機になり、韓国は、あたかも水が低いところに流れるかのごとく自然に、すとんと中国勢力圏に落ち着いてしまいます。

 韓国と中国と言うのは、人間同士を見ている限り、決して相性が良いようには見えませんし、韓国には日本と同様、強い西洋人崇拝志向がありますので、韓国がわざわざ中国に接近していく、というストーリーには違和感がありました。

 しかしこの本の中では、歴史的に、韓国には「中華世界」の中で、隣の大国とつきあってきた長い経験があり、中国を親分として従うことには本来違和感はない、中国が強くなればその傘下に入ることを当然ととらえている、ということが書かれています。
 これはほとんどの日本人にとっては意外な視点でしょう。


 果たして、実際のところはどうなのでしょうか?

 何と言っても、現代の韓国の人たちは、西側の国の人たちと多くの価値観を共有しています。一方で、中国大陸の人たちは、まだ現時点では、西側の国の人たちとは明らかに違った価値観を持っています。それは戦後の社会主義時代に、国が外から隔絶され、国内だけで、特殊な世界が形成されてきたという歴史的背景が大きいと思います。
 現代の韓国の人たちには、「人対人」というレベルでは、中国を親分として受け入れる感覚があるとは、どうしても思えないのですが。