「獄窓記」 山本譲司著 を読む

 夏休みの旅行先で読もうと思い買った本でしたが、この週末ひさびさに時間が出来て、いっきに読むことができました。

 結構たるい内容の本かと思っていたのですが、著者が刑務所に入ってから体験するさまざまな内容は非常に刺激的かつ衝撃的で、思わず引き込まれていきます。文章も非常に読みやすく、まるで素人とは思えない文章力です(もし本人が書いているのであれば)。


 刑務所の中と言うのは、ただひたすら時間を過ごして出所を待っていればいいのかと思いきや、実は、日々たいへんきつい仕事もやらねばならず、しかも「仮出所のタイミング」という弱みを握られているがため、看守の理不尽な扱いにも絶対服従せねばならず、これはこれで実にたいへんなところであることがわかります。
 山本氏は、そんな厳しい環境下で、人が嫌がるキツイ仕事にあえて真っ向から挑み、それを通じて刑務所や障害者に関するさまざまな問題点を知ることとなり、自分が出所後取り組んでいくべき課題を発見していきます。
 非常によくできたストーリーです。

 山本氏が、犯罪の認識などないままに、まったくの青天の霹靂で実刑判決を受けることになってしまったように、誰もが明日には刑務所に入ってしまう可能性があります。我々誰にとっても、他人ごととは思えない内容なのです。

 ただ、本の中で書かれている著者の言動は、終始一貫あまりに優等生すぎて、現実的でないなという印象もあります(ノンフィクションとは言えど、もと政治家の公式な発言ですから、おかしなことは書けないのでしょう)。


 私はあまり「政治」に興味がないので、山本譲司氏という人については、そんな名前の人がいるな、ということぐらいしか知りませんでした。何となく、若くて売名行為の好きな、ちゃらついた感じの人物、という印象を持っていました。


 私の「政治家」に対する一般的な印象というのは、

・自己顕示欲が強く、
・自信にあふれていて、
・一般人のことなど利用する対象としか思わず、
・その場に合わせて2枚舌・3枚舌を使うのも平気で、
・他人を押しのけたり策略を働かせてうまくやることに喜びを感じ、
・しかもそうしてうまくやることがエライという揺るぎない価値感を持っている、

 というようなもので、一言でいえば「イヤなやつ」タイプです。実際にTVで目にする政治家達は、顔を見ている限り、ほとんどがそうしたキャラクターのように見えます。

 山本氏もそうしたイヤなキャラクターだと思っていたのですが、この本を読んでみると、そうでもないようです。この本の中でそうしたキャラクターとして描かれているのは、「辻元清美」氏だけです。人格者である山本氏も、辻元清美氏のことだけはどうしても許せないようで、本を読んでいる私も、山本氏に代わって、面の皮が厚い辻元氏を何とかお仕置きしてやりたくなりました。



 山本氏は、刑務所の中で自ら体験した、障害者を中心とした受刑者の扱いや社会復帰についての課題を解決すべく、出所後地道に活動を続けているようです。
 実刑判決を受けたことによって、前科を持ち、議員の職も失い、社会活動を制限されたという大きなデメリットはあっても、結果として今の山本氏は、「彼にしかできない仕事」を持っています。刑務所で実際に課題に向かい合ってきた彼だからこそ、説得力を持って人を動かすことができるのです。むしろワンオブゼムだった議員時代よりも、より本質的に、社会のためになる活動が出来ているのかも知れません。
 山本氏の活動にエールを送りましょう。