「自販機の時代 "7兆円の売り子"を育てた男たちの話」 鈴木隆著 を読む

 この本は、数年前に買って、途中まで読んだところで、ずっとそのままになっていました。昨日の夜、本棚にあったのをふと手にとって、もう一度最初から読み始めてみると、結構面白くて、一気に読み終えてしまいました。

 「自動販売機」という、身の回りにあふれていて、毎日何度も使っていながら、あらためて意識することの少ない製品。日本における、黎明期から現在に至るその盛衰を、実際に活躍した無名のプレーヤーたちの具体的なエピソードを中心に語っています。プロジェクトXのような内容です。

 特にハイライトされているのは、富士電機永井隆氏という人です。この方は、60年代、万博前の業界黎明期から、海外メーカーとの提携、アメリカのコーラ会社との交渉、販売機供給会社のルートづくりまで、八面六臂の活躍で、日本の販売機業界そのものを作ってきた人です。こういう話を読むと、高度成長時代のイケイケのビジネスと言うのは、社会が成熟し、世の中全体が「管理」主体になってきた感のある今の時代とはまるで違うな、ということをつくづく感じさせられます。


 著者は、富士電機・三洋・サンデンといった製造業者から、コーラやビールなどの飲料会社、オペレーターと呼ばれる販売機の供給会社まで、自動販売機に関係するプレーヤーを幅広く取材し、自動販売機という一つの業界の全体像を多面的に語っていきます。60年代の古いエピソードまでさかのぼり、幅広い人物と内容を網羅していることに感心します。


 日本の自動販売機業界も、他の業界と同様、すでにピークを過ぎ、市場規模は年々シュリンクしているそうです。自動販売機のむずかしさは、日本市場が、ケイタイ以上に完全にガラパゴス化しており、海外展開が殆んどできていないことです。よって、90年代以降、日本市場が縮小するにつれ、製造業者は軒並み赤字となり、業界1位(富士電機)・2位(三洋)が合併するという再編が行われ、何とかロングテール化の生き残りに向かっているようです。


 日本ではこれだけたくさん身の回りに存在している自動販売機ですが、海外での普及率は日本に比べて極端に低いように思えます。ヨーロッパでも、飲料の販売機はときどき見かけますが、図体がバカでかい割には、頭が悪く、よく釣銭ギレになっています。アジアの各国でも同様だったと思います。どうしてこんなにバカな機械ではなく、日本のコンパクトでインテリジェントな販売機が普及しないのだろう?と不思議になるのですが、この本にはアメリカの販売機は、「耐久性」と「価格」がポイントだと書かれていました。他の多くの耐久消費財と同様に、日本の自動販売機は、あまりに壊れやすそうで、FRAGILEに見られるのかも知れません。しかし、アジアの国ならばもっと普及してよいように思えます。治安の面でも、メンテナンスや中身の供給などの仕組みづくりの面でも、台湾やシンガポール、マレーシア、タイなどの国なら十分対応できるはずです。これからの国では、コインも結構普及していたと思います。まだ他に文化的な障害があるのでしょうか? 


 今日、近所のショッピングモールに行った際、自動販売機を見つけて、思わず銘板ステッカーの製造業者名を探してしまいました。やはり業界シェアNO.1の「富士電機リテイルシステム」と書かれていました。
 これからしばらく、自動販売機に注意を引かれてしまいそうです。