「個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年」 池田信太朗著 を読む

 正月休みで時間ができたので、夏休み以来、久々にこのブログをアップデートします。 
 2010年〜11年ごろには、本を読むたびに、記録がてら感想文などを書きこんでいたのですが、昨年は職場の組織変更等で仕事の負担が増え、すっかりブログを書く時間がとれなくなってしまいました。

 
 さて、「コンビニ」という、日本で独自に進化を遂げた業界については、以前から興味があり、ずいぶん前にも、セブンイレブンに関するこんな本を読んで文章を書いたことがあります。↓
「セブン・イレブンの仕事術 一兵卒のビジネス戦記」 岩本浩治著



 今日の本は、コンビニ業界不動のNo.1で、常に研究対象とされている「セブンイレブン」についてではなく、業界2位の「ローソン」と、その社長である新浪剛史氏の、この10年間の取り組みを分析した本です。

 新浪氏の行ってきた取り組みは、単に先行するセブンイレブンの後追いではなく、実は「コンビニ」の定義自体を変えてしまうような、まったく独自の戦略ストーリーによるものでした。この本では、そのストーリーを構成する各要素について、象徴的で具体的な事例の紹介から、その背景となる考え、さらにそれら各要素が結びついた大きなストーリーの全貌、までをキーパーソンへの取材を通じて解き明かしていきます。
 さすが「日経ビジネス」記者の方が書かれているだけあって、構成やストーリーはたいへんわかりやすく、読みやすい本です。


 よく世間で紹介されているセブンイレブンの勝ちパターンとは、以下のようなものだと思います。

○POSシステムを活用した単品レベルでの販売管理
○本部主導の商品政策と、フィールドカウンセラーによる販売施策の現場への徹底
○現場の各店舗レベルで仮説・検証のプロセスを繰り返す発注業務
ドミナント出店と効率的な物流・配送システムの追求
○加えて、上記を徹底してやり抜くこと


 これに対して、この本で書かれているローソンの目指す方向性はまるで異なっています。

○それぞれ異なる顧客=「個客」に対応するのが第一目的。
○そのために店舗は画一である必要はなく、個客に合わせて多様性をもたせる。
  (生鮮食品の取り扱いやタイアップ店など、店舗のフォーマットもバラバラ、ブランドの色まで違っていたりする)
○現場での顧客との密なコミュニケーションを実現するため、本部から支店や加盟店へ権限を委譲。
 (商品開発や、店のフォーマットまで支店単位に権限があり)
○本部は、個客の消費を把握するため、「会員カード」によって入手したビッグデータの分析を行い、より高精度の商品開発や生産計画を実施。
 (「会員カード」では、POSデータではカバーできないリピート購買の状況や、詳細な顧客属性の分析が可能。素人の各店舗に仮説・検証をやらせるよりも、こうしたデータをプロが分析することによって本部主導による自動発注を目指す)


 これらの内容は、セブンイレブンの思想とは正反対ともいえるようなものですが、この本を読んでいくと、「個客」に対応するという目的のもとに、全体が一つのストーリーにまとまっていることがわかってきます。


 セブンイレブンのやり方は、本部では、データ分析に基づいた全国一律の商品政策と、効率を追求した仕組みづくりを追求、現場の店舗では販売の最大化とロスの最小化のため、仮説・検証による日々の販売予測に命をかけさせます。

 一方、ローソンは、現場へ権限移譲することにより多様化する個客へのフレキシブルな対応に強みを持つことを狙い、小さな本部は、大きな仕組みづくりを通じてCRMとSCMの推進に集中しようとしています。

 その中で、今までコンビニ経営の「キモ」とされていた「発注業務」について、ローソンは、本部主体での発注提案、個店は一部の調整以外は自動発注化、という形を目指していることは、セブンイレブンとの比較において非常に面白い事例です。

 後追いのプレーヤーだったローソンには、セブンイレブンと同じ戦略では常に勝てない、という現実がありました。それを踏まえたうえで、自分たちのリソース(それが好むと好まざるとを限らず)を使って、どこで勝負すべきなのか、を試行錯誤し、新浪体制のもと10年近い時間をかけて、今の戦略ストーリーを形作ってきたようです。
 ローソンは、セブンイレブンとは異なる形態の「コンビニ」を、RE-INVENTしようとしているのでしょう。


 しかし私には、この本を読んだ限りにおいては、まだローソンの戦略は、セブンイレブンのものほどには、切れ味が良くないように感じられます。
 もしかするとそれは、新浪氏自身が述べているとおり、戦略の全貌や「キモ」をディスクローズせず、競合を煙に巻こうとしているためなのかも知れません。

 今後、コンビニ業界での勝負がどうなっていくのか、興味深いところです。
 


 私個人の印象としては、機械のように冷たい感じのするセブンイレブンよりも、人間のファジーさを感じさせるローソンの方が、買い物先としては行きたくなる感じがします。
 コンビニでの買い物が、単なる利便性の追求ならば、言い換えれば、コンビニが単なる品物の「配給所」のような機能を期待されているのならば、セブンイレブンの方向性は最強ではないかと思います。
 しかし、買い物には、たとえ日常の買回り品であろうとも「感性」の要素があります。
 「楽しさ」のない買い物は実に味気がありません。
 その点で、ローソンの方向性には共感できるものがあるのです。