"touch truth"− サムスン スマートフォンのTVCF

 ここのところ、テレビを見ていると、坂本龍一が出ているサムスンスマートフォンのCFが、これでもかと、集中投下されているのが目につきます。

 サムスンは、日本市場での家電製品からいったん手を引いていましたが、最もお得意の分野であるケータイから再度勝負をかけてきているようです。
 Consumer Electronicsの世界では既に世界市場制覇を実現してしまったサムスンにとって、唯一手つかずに残っているのが日本市場です。
 狭いマーケットの中にローカルメーカーがひしめき、生き残りをかけたガチンコ勝負を日々繰り広げている、という市場の特殊性から、費用対効果の面で、日本市場は後回しにされてきたのでしょう。
 しかし、2020年には40兆円を目指すというビジョンの実現のためには、世界を満遍なく押さえる必要があり、日本市場も例外ではなくなってきているのではないかと思います。

 サムスンの勝ちパターンは、まず市場参入の突破口として、技術革新が速くマーケットがどんどん変化していくケータイ市場において、新参ブランドへのアレルギーが比較的少ない若年層を対象に、尖った商品と宣伝投資で、「クールなブランド」という尖ったイメージを根付かせる。そこでこじ開けた一穴に、TVやデジカメなど他の商品レンジを押し込んでいき、多額な宣伝投資によって無理やり穴を広げていく。気がついてみれば、サムスンは大多数の顧客層に「クールなブランド」としてすりこまれてしまっている。
 こうしたいつもの勝ちパターンが日本でも通用するのか。それは、ケータイでの緒戦にかかっていると言えるでしょう。

 商品面では、スマートフォンというカテゴリーで勝負するのは正解だと思います。海外市場では早くからブラックベリーなどのスマートフォンは一般に普及していましたが、日本では長い間、親指入力型の小型高機能ケータイが主流でした。しかし、iPHONEのヒットによって、日本でもスマートフォンという商品カテゴリーが一気に身近になってきています。ところが、日系メーカーにとって、この分野は得意分野ではなく、一気に商品陣容を広げることはできません。一方、サムスンは早くから欧米市場向けにスマートフォンを手掛けてきていますので、日系メーカーの先を行く商品を投入することができます。この市場の変化はサムスンにとっては千才一隅のチャンスであるはずです。


 宣伝訴求面では、坂本龍一を使ったCFは正解だと思います。
 他の日系メーカーが、若い芸能人を使い、流行を追ったちゃらちゃらしたイメージで訴求しているのに対し、坂本龍一を起用することによって、知的な大人にとっての遊び道具という雰囲気を伝えることに成功しています。
 また、坂本龍一の「国際的に活躍している日本人」という「無国籍」なイメージが、韓国オリジンだが、グローバルブランドという位置づけで自らをポジショニングしていきたいサムスンの方向性とマッチしていると思います。

 しかし、"touch truth”という宣伝のコンセプトはピンと来ません。
 CFのナレーションを聞いていると、「常識から、退屈から、ルールから、制約から、僕を解放してくれるのはこのケータイ」というようなメッセージが流れているのですが、なぜこれが、"touch truth”という言葉につながるのかわかりません。
 どこかでこのコピーが展開されているかと思い、サムスンやドコモのウェブサイトも見てみましたが、どこにも、"touch truth”という言葉自体でてきません。どうやら、TVCFだけが独立して作られているようで、WEBなどのメディアとの連動まで図られていないようです。
 "touch"という言葉は、タッチキー入力にかけているわけですが、英語で見せられてもピンと来る人は少ないでしょう。価格が高い商品ですので、あえてお金を払ってくれるこだわりを持った人たち、あるいはある程度所得のあるビジネスマンなどをターゲットに考えているのだと思いますが、少し小難しくしすぎたのではないかな、という感があります。
 また「生き方をスマートにするスマートフォン」などというコピーも出てきます。それっぽいコピーはいろいろ出てくるのですが、結局何かバラバラで記憶に残んないよな、という感じがします。


 スポット宣伝の回数から考えると、莫大な宣伝投資をかけているはずなのですが、その割にまだ日本の宣伝販促オペレーションは地に足がついておらず、単発的な活動になっているのではないかという感じを受けます。
 TVCFは、手っとりばやくお金をつぎ込めば出来ます。サムスンにとっては、この程度の宣伝投資など、痛くもかゆくもない程度の金額でしょう。ですが、市場で勝つためには、空軍による空爆(メディア宣伝)だけではなく、最終的に陣地を取りに行く地上軍の存在が不可欠です。空軍と地上軍が連携することによって、初めて効果的な戦争が可能になります。
 特に日本市場においては、欧米市場と比較して、宣伝やPRによるブランドづくり以外の要素、例えば商品のローカライズ対応や、サービス対応、店頭プロモーションなどをきめ細かく実施することなどが重要になると思います。

これから、サムスンが日本市場で勝てるか否かは、現場で戦う地上軍組織を作り上げられるかどうか、にかかってくることでしょう。