「日本人が知らない『儲かる国』ニッポン」 ティム・クラーク&カール・ケイ著

 あるブログで紹介されていたのを見て、アマゾンで中古本を購入しました。読むのがとぎれとぎれになってしまい、読み終わるまでに2〜3カ月かかりました。
 外国人起業家の目で見た日本のサービス業という珍しいテーマで、かなりマイナーな本だと思います。
 もともと日本人を対象に書かれたのではなく、外国人に対して、日本でのビジネスにチャレンジしよう、と啓蒙する内容の本です。
 原題は、"Saying yes to Japan: How outsiders are reviving a trillion dollar services market"。



 トヨタなど日本の製造業については、外国人によって分析された本は多いですが、サービス業に関して書かれた本は少ないでしょう。製造業においては、日本企業の国際競争力が常に話題になっているのに対して、サービス業については、競争力を他の国と比較するという概念自体が、あまり一般的ではないことと思います。もちろん「在庫にできないため、ほかと単純に比較できない」というのは、サービス業の基本特性なわけですが。

 一般に、日本人は、日本のサービス業は優れている、という認識を持っている人が多いと思います。アメリカのようなお客様をお客様とも思わないような素っ気ない態度とは違い、日本には「おもてなし」の文化をベースにした、かゆい所に手が届くサービスがある、ということです。

 しかし著者は、日本のサービス業においては、一部では行きすぎたほどの顧客にへつらっているようなサービスはあっても、より本質的なサービスがないがしろにされていると指摘しています。
 その具体事例として、金融、不動産、医療、ITの業界をとりあげ、これらの業界では、欧米ではすでに常識となっているサービスが、日本ではまったくないがしろにされており、その結果お客様がいかに不自由をかこっているか、について具体的に説明しています。
 さらに、そうした日本のサービス業界にチャンスを見出した外国人が、実際にビジネスを始め成功している事例を紹介していきます。「ソフトブレーン」の宋文洲氏や、「アシスト」を創業したビル・トッテン氏などの著名人も登場します。
 著者は、日本の製造業が世界トップレベルで競争しているのに対し、サービス業が進化しなかった大きな原因として、政府の保護・規制を挙げています。
 しかし、政府による保護・規制も緩和されてきており、欧米の進んだサービス業のノウハウをもった外国人が、日本でビジネスを起こし成功するチャンスは大きくなっていると述べています。
 所得が高く、インフラが整っており、マーケットも均一という、非常にビジネスを行いやすい市場環境でありながら、しかも競合他社は異常に時代遅れのビジネスをしている。ノウハウをもったプレーヤーにとっては、まさに理想のビジネス環境があるわけです。


 この本を読むと、不動産や、医療、金融など、いかに我々が、日々お客様第一とはほど遠いサービス業に苦しめられているかがよくわかります。医者に診療代以外に「賄賂」を渡さなければならなず、医療ミスをチェックすることもできない医療、売り手と買い手の両方から手数料を取っている不動産業、指摘されてみればまさにそのとおりなのですが、まわりはすべてそういうものだと思っているため、「遅れ」に気が付いていないのです。
 日本のサービス業は「お客様は神様」で、世界一だと思っていても、結局それは、「接客」「接遇」という一部だけのことのようです。サービスの本質 − 質の高い医療を受けられる、適切な資産形成のアドバイスを行う、など顧客の本質的な課題を解決する顧客の立場にたった「プロフェッショナルなサービス」については、ずっとないがしろにされてきているようです。



 ここにも、製造業とも共通する日本の産業の根本課題が見え隠れしています。現場のオペレーションレベルでは、非常に質の高い業務が行われているが、根本的な経営戦略が欠落しているために、本質的に競争力が無い、ということです。
 「お客様は神様」という接客に頼ったサービス業は、つまり、根本的なビジネスの競争力欠落を、現場のオペレーションに頼って何とかやりくりしようとしている、と言えるわけです。


 8月になると、テレビでは戦争モノの番組が増えてくるのですが、日本の戦争の話を見ても、結局、課題の本質はこれと同じことです。
 根本的な戦略の欠落を、現場の下士官レベルが個別の戦闘レベルの超人的な頑張りでカバーする、それによって、本来、戦略を立てるべきトップはますます現場のオペレーション力に頼った作戦に陥っていく、という負のスパイラルです。
 
 この背景にあるのは日本の文化そのものです。
 この日本の文化の良い面を殺すことなく活かしながらも、ズドンと大きく欠けている部分を埋めていくにはどうしたらよいのか。
 これがここのところずっと考えている課題です。