「ザ・クリスタルボール 売上と在庫のジレンマを解決する!」 エリヤフ・ゴールドラット著

 先日、関空の本屋さんで、「在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる!」と書かれたコピーに惑わされて購入し、欧州行きの飛行機の中で読んだ本です。

 ゴールドラット氏の本は、TOC理論を読み物風に紹介した「ザ・ゴール」が有名で、私もずいぶん前に読みました。今回は、その小売業版ということのようです。基本的なスタイルは以前の本と同様、著者の理論を、物語の形で紹介していますので、主人公に感情移入して楽しく物語を読んでいくうちに、理論もわかってしまう、というタイプの本です。こういうスタイルの本はアメリカには多いような気がします。

 ですが、私はこの本にはまるで感情移入できません。物語のベースになっているアメリカ人のライフスタイルや、登場人物のせりふ一つ一つの発想の仕方が、あまりに日本に住む日本人の感覚と食い違っているために、違和感ばかり鼻について、まるでピンと来ないのです。

 TVで、「ビバリーヒルズ 青春白書」のシーンを真似してお笑いにしている芸人がいましたが、まさにその感じです。アメリカでは自然にとらえられるセリフでも、日本という社会の中で、日本人が演じた途端に、「ギャグ」としかとらえられなくなるわけです。

 著者の狙いは、堅苦しい説明調のビジネス書ではなく、読者が普段身を置いている生活シーンでのシチュエーションと言語で説明すれば、読者がより自分のまわりで起きていることとして実感できるだろう、ということなのですが、海外の読者が対象の場合、狙い通りにはいかないこともあるわけです。

 日本語版をつくるにおいては、単に言葉を日本語に訳するだけでなく、登場人物や、その舞台、会話の内容自体を、日本でのライフスタイルに合わせた形に転換しなければならないのでしょう。

 その逆も真であり、例えば司馬遼太郎は、日本では国民作家となっていても、海外では無名で、ほとんど翻訳もされていません。
 これが外国文学の翻訳ものが、ぶち当たる壁だと思います。


 ちなみに、本の内容については、期待したわりには、当たり前の内容でした。倉庫・中間在庫を減らし、在庫を中央倉庫に集約させ、実需を起点に、サプライヤーまでをタイムリーに直結した仕組みをつくるという内容で、すでに常識的に考えられているデマンドベースのサプライチェーンとの違いがわかりませんでした。もちろんTOC理論に関しては、非常に奥深い内容があるようですので、私には理解できていないだけかも知れません。

 また、基本的に末端店舗での販売予測は困難である、ということを前提に、実需変動に対して、どうやって素早く、在庫の補充・サプライヤーからの供給を行っていくのか、という観点が述べられていたのですが、一方で、セブンイレブンのように、個店単位での仮設・検証繰り返しによる販売予測命でやっている企業もあります。
 セブンイレブンの思想と、TOC理論は、どう整合性があるのか、というのも考えてみたいところです。