日経12月17日記事 「韓国企業 強さの秘密」 中

 昨日に引き続いての特集記事です。
 価格や、果敢な投資力だけではない、韓国ブランドの総合力について紹介されています。

 サムスン電子が3月に発売した「LEDテレビ」は、液晶画面を照らす光源を蛍光管からLEDに切り替えた。画質と省電力性能が向上し、通常の液晶テレビより約5割高い値段で売れた。業績改善にも貢献し、7〜9月期連結営業利益は前年同期比2.9倍の4兆2300億ウォン(約3,250億円)。来年には一気に09年見通しの4倍の1,000万台を世界で販売する計画だ。
 実はLED搭載テレビはソニーが04年に世界で始めて発売。昨秋には新モデルを投入したが、液晶テレビの上位機種と位置づけ、普及しなかった。ある日本企業幹部は「同じ液晶テレビなのに、『LEDテレビ』というカテゴリーを作ってしまうとは」とサムスンの売り方に舌を巻く。 


 今年のIFA展示会でも、ベルリン市内ポツダム広場前の巨大ビルボードサムスンの『LEDテレビ』でした。(すぐ横はソニーセンターだというのに)。
 新しいフィーチャーを訴求するときに、それを単なる付加価値ではなく、『新商品カテゴリー』として訴求したい、というのは、マーケッターがよく考えることです。しかし、それが成功する事例は多くはありません。
 ほとんどのフィーチャーは、いくら目新しくとも、お客様から見ると、単なるひとつの付加価値に過ぎないことがほとんどです。
 商品の価値や使途を革命的に変えてしまい、別な商品カテゴリーと呼ぶにふさわしいようなイノベーションは、滅多に生まれることはありません。ましては、違いが、外からはっきりと目で見えるものでないならば、なおさらです。
 『ななめドラム洗濯機』のように、洗濯機と言う、数十年間続いている既成商品に、新カテゴリーを作ってしまった例はきわめて稀です。

 『LEDテレビ』も、話を聞く限り、『薄型テレビ』というカテゴリーの中での単なる要素技術の持続的進歩のひとつに思えます。お客様にとっては、見た目も変わりませんし、省電力と言ったって、テレビの電力消費などたかが知れています。
 ですが、サムスンは、それを強引に『新カテゴリー』と位置づけて、集中的な宣伝投資で高く売ってしまったのです。


 こうした力技のマーケティングは、日本の家電市場ではよく目にするものです。日本の有力家電ブランドは、高いブランド力・お客様からの絶対的な信頼感・強力な販売力・集中宣伝、を武器に、あまり切れ味のよくないストーリーでも、無理やり力技で販売してしまうことが多々あります。

 自社の強いブランド力や販売力に頼れない欧州市場を担当していると、その違いを身にしみて感じます。強いブランド力や営業力が無い場合、商品コンセプトやマーケティングコンセプトは、刃物のように切れ味がよくない限り、決して売れることはありません。

 今回の『LEDテレビ』の事例で痛感するのは、サムスンは欧州市場で力技のマーケティングを成功させられるようになった、という事実です。それを可能にするブランド力、つまり、サムスンが言っているのだからすごいものに違いない、と消費者・流通に思わせてしまう説得力、を持つようになったということです。 
 すでにコンシューマーエレクトロニクスの世界では、No.1ブランドであるサムスンですが、こうした力を持つことによって、ますますマーケティングがやりやすくなる、という好循環に入ってきているのでしょう。 
 サムスンは、今まで苦戦していた欧州の白物家電にも、今後力を入れていくと発表しています。携帯電話とTVで築いた圧倒的なブランド力と、思い切った商品コンセプト、そしてそれを強引に成功させてしまう力技のマーケティング、それらが揃った今、白物家電業界でも、新たな成功神話が生まれるのでしょうか。
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