「名誉除隊 星条旗が色褪せて見えた日」 加藤喬著 を読む

 かなりマニアックな本だと思います。
 京都イオンモールの中にある書店で、「軍事」コーナーに置いてあったのを偶然見つけて買ってきました。


 著者は、アメリカに留学し、学生時代からROTC(大学に通いながら軍人としての訓練を受ける幹部養成制度)として訓練を受け、卒業後そのまま米軍に入隊し、最後は、大尉にまでなったという人です。
 整備部隊の中隊長として、湾岸戦争の実戦にまで参加しています。今は除隊し、国防省外国語学校の日本語部長をされているそうです。

 本には著者の写真がのっているのですが、非常にハンサムで、芸能人のようです。
 写真のポーズも決まっているので、かなりのナルシストなのでしょうか。
 特に著者紹介に使われている近況写真は、長髪の髪型といい、一般人には見えません。
 文章も、著者の写真と同様、かなり格好をつけた構成と書き方で、自分の体験談を、ここまで恥ずかしがらずに、ドラマティックに演出して表現できる、というのが凄いと感じます。


 驚いたのは、著者の父親は、SF作家の「福島正実」氏だったということです。
 日本のSF界の草分けとして、私も福島氏の名前は聞いたことがありました。
 素人にしては、ずいぶんと文章が上手だな、と思ったのですが、やはり文筆家の家系なのでしょう。
 最近は、英語ブートキャンプという英語の教材も出したりしているようです。


 著者は、子供のころからあこがれの国だったアメリカへ赴き、アメリカという国の一員となるべく軍隊に入隊し、最後は大尉にまで昇進し、子供のころからの目的を達成します。
 アメリカに生まれ育ったわけでもない著者にとって、特に、言葉の問題がどれだけたいへんであったかは想像に難くありません。 
 しかしその後、著者は、9−11以後の独善的なアメリカの行動に疑問を感じ、軍隊から離れることになります。



 軍隊は、アメリカに住むマイナリティーにとっては、アメリカ社会に認められる、最も効果的なルートなのでしょう。
 第2次世界大戦での日系人部隊442部隊は有名です。
 私は、米軍について直接はよく知らないのですが、以前、ウラジオストックを旅行したとき、ちょうど米海軍の船が入港したところで、街じゅうに米兵があふれていたのですが、彼らのほとんどが、非白人だったことが印象的でした。アングロサクソン風な人は女性兵くらいでした。
 こうした、複数のルートが社会に存在していることは、非常に重要だと思います。
 
 軍隊の訓練はどこでも決して楽ではないでしょうが、韓国軍や旧日本軍のような理不尽なイジメの場となっておらず、合理的な組織になっている(らしい)ことも、つくづく米軍の素晴らしいところだと思います。
 太平洋戦争での日本軍と米軍をくらべれば、「合理性の追求」において大きな差があったことは明白です。
 しかし、その差は、現代の企業においても、太平洋戦争当時とまったく同じように存在しているように思えます。
 アメリカの企業や軍隊は、なぜ判断を合理的に下すことができ、日本の組織にはそれができないことが多いのか。
 日本の企業でそれができているのは、カリスマ的な創業社長など、強力なトップがあらわれたときに限られており、通常の状況では、そうはならないことが多い。
 しかし、それは、非合理的な状況でもベストを尽くそうとする、優秀な現場力と表裏一体になっているのです。
 今回の地震への対応でもそれは如実に表れています。
 
 今の自衛隊がどうなっているのかはわかりません。しかし、自衛隊は、その存在・位置づけ自体が、根本的な非合理性を抱えていますので、旧日本軍よりも、より理不尽な状況になっていることは確かなのでしょう。