김현철/9집 - TALK ABOUT LOVE Kim Hyun Chul

 音楽のことについて書いてみます。音楽については、いくらでも書くことがあるのですが、今日はまず、最近聞いているCDのことから。
 最近、週末の夜遅くに聞いているのが、韓国のミュージシャン 김현철 Kim Hyun Chul/ キム ヒョンチョルの「Talk about love」というCDです。

 今年の正月休みに、フィジーに旅行したのですが、行き帰りのフライトが大韓航空だったので、インチョンでストップオーバーして、ソウル市内を1日うろうろしていました。数年ぶりの韓国だったのですが、その際に、昔から市内の真ん中にある「教保文庫」という書店で買ってきたものです。 
 Kim Hyun Chulというミュージシャンを最初に知ったのは、1989年、私が、韓国に留学していたときです。

 当時の韓国の音楽シーンは、正直、非常に層が薄く、大衆向けの歌謡曲以外、気の利いた音楽などほとんどありませんでした。
 おそらく、最近の韓流ブームなどで韓国の音楽に触れた人には想像もできないでしょうが、当時のアルバムには、必ず「健全歌謡」と言って、童謡などの「健全な」曲を一曲は入れなければいけないという規制がありました。ロック風の歌手が、アルバムの最後で「故郷の春」などの童謡を歌っていたものです。
 また、当時は英語の歌詞というのもほとんどありませんでした。当時ヒットしていた曲で、サビの部分の歌詞が一部英語になっている曲があったのですが、マスコミで「なぜ韓国語ではなく、英語なのだ」と非難されていたのを覚えています。昨今の韓国の流行曲は英語だらけになっているように思えるのですが、当時非難していた人たちは、いまだに眉をひそめているのでしょうか??

 学生時代の私は、もともとジャズやフュージョンが好きだったのですが、当時の韓国の状況では、そんな音楽はほとんど見つかりませんでした。

 唯一フュージョン系バンドとして、ある程度知名度があったのが、「봄 여름 가을 겨울/ ポムヨルムカウルキョウル(春夏秋冬])」というバンドです。音楽の方向としては、ジャズ・フュージョン調のインストと、演歌調の(そう聞こえる)歌モノが半々という感じだったと思います。当時の私は、ほかに選択肢がなかったので、聞いていたのですが、あまり音楽のセンスが良いとは思えませんでした。
 もっとさかのぼっていくと、このバンドは、김현식; KIM HYUN SIK/キムヒョンシクという歌手のバックバンドからスタートしているはずです。KIM HYUN SIKは、魂の叫びをぶつけるような歌で、80年代後半の韓国の若者の心をがっしりととらえたカリスマ的歌手でしたが、私が留学から帰国するころに、突然亡くなってしまったはずです。一方、、봄 여름 가을 겨울(春夏秋冬)は、韓国のCD屋さんではまだ新しいCDが出ていましたので、その後も継続して活動しているようです。

 さて、そんな韓国の音楽シーンで登場したのが、Kim Hyun Chulでした。確か、雑誌で紹介された記事を見てテープを買ったのだと思います。びっくりしたのは、Kim Hyun Chulはまだ21歳の学生だったこと(韓国は数え年ですから、日本では20歳です)。自分と同じくらいの年のヤツがこんな音楽を作っている、しかも、こんなにレベルの低い音楽シーンの中から出てきた、というのが衝撃でした。

 私の感覚では、当時の韓国の学生は、2つのタイプに分かれていました。一つのタイプは、私が住んでいた下宿にいたような地方出身者たち。おしゃれなファッションやレジャーとは無縁で、お金もモノもなく、二人部屋に住んでいたタイプ。みな持物と言えばカバン一つに入るぐらいのモノしか持っていませんでした。
 もう一つは、ソウルで生まれ育った人たち。経済的に余裕があり、車に乗っていたり、当時はブルジョアのレジャーだったスキーをするような人もおり、さらにまともに現役で軍隊に行く人も少ない(ほとんどは「防衛軍」という自宅通いの短期兵役になる)。彼らは、親の仕事の関係などで海外の文化・情報に触れることも多く、文化的なものにも造詣がある人が多かったように思います。私は、下宿屋に住んでいたこともあり、地方出身者に混ざって生活していたのですが、Kim Hyun Chulを見て、ソウルのお坊ちゃんなんだろうなという印象を受けたのを覚えています。

 この「Kim Hyun Chul 第1集」のテープは、その後、日本に帰ってからも、ずいぶん聞きました(今ではもうカセットテープを再生できる機材もなくなってしまったので、さすがに捨ててしまいましたが)。このアルバムの中では、「春川へ行く汽車」という曲は代表曲になりましたので、おそらく韓国の普通の人でも知っている人は多いと思います。
 その後、20年の間に、数回韓国に旅行しているのですが、そのたびに、テープ屋さんやCD屋さんで目に入った Kim Hyun Chulの新しいアルバムを買っています。 どのアルバムでも決まって、最初の曲はテンポの良いインストなのですが、それが以外にセンスがよく、よく車の中で聞いておりました。


 さて、今回の新アルバムである「Talk about love」は、彼の第9集になるようです。印象としては、ずいぶんサウンドが変わったな、という感じがします。昔の曲は、フュージョン・ジャズ調のアレンジの曲と、ラブバラードが混ざった感じでしたが、今回は、タイトルが「Talk about love」であるためか、今風のアレンジのラブバラード主体となっており、フュージョン色はすっかりなくなってしまったようです。定番だった1曲目のインストもなくなってしまっています。まあ、今の時代はフュージョンなどという言葉自体が死後になっているようですし、韓流の王道はラブバラードでしょうから、こうなるのでしょうか。

 私のお気に入りは、1曲目の「Wonderful Radio」と、4曲目の「그 언젠가는 (유학)」。
 「Wonderful Radio」は、さわやかで広がりのある今風のサウンドで、これから始まるアルバムの世界を、ワクワクと期待させてくれる曲です。

 「그 언젠가는 (유학)」も、アレンジ自体はきわめてシンプルなのですが、サウンドが秀逸。音数を削ぎ落とし抑制された導入部から、サビに入るや否や、空間を感じさせる美しいコーラスのハーモニーが眼前に広がり、それと対称的に前ノメリにシンコペーションの効いたベースがビートを煽っていく。そこにかぶさる歪んだギターは、ブリティシュロックのような哀愁をはらんだ音色で、シンプルかつ素直にメロディーを歌っていく。決して、奇をてらわない、プロの音作りです。
 さらに、歌詞についても、「海外に留学してもう6年、彼女とも別れ、まだまだ勉強の終わりは見えないが、いつかは夢をつかむのだという思いを信じ、徹夜明けのコーヒーを飲む」という、少し変わったシチュエーションの内容も、この曲に乗るとなぜか泣かせるのです。


 私にとっては、昨今の韓流ブームで紹介されている韓国の音楽は、世界が違いすぎ興味がありません。私にとっての韓国は今でも、韓国人の学生達と泣いて笑って一緒に青春を過ごした'89年当時の신촌(シンチョン)の街なのであり、それはもうどこにも存在してはいないわけですが。

 しかし、当時と同じミュージシャンの、今の音楽をあらためて聴くと、この20年の間に、韓国の音楽シーンもこんなに成熟したのか、ということに、感無量なわけであります。

 おそらく日本では誰も知らないマニアックなミュージシャンについての話でした。