「若き将軍の朝鮮戦争」白善菀著 を読む

 GWの韓国旅行以来、すっかり韓国モードです。

 週末の気分転換に、昔読んだ本をもう一度ひっぱりだして読んでみました。
 白善菀(ペクソンヨプ)将軍は、朝鮮戦争で活躍した韓国の軍人です。私は、この本を読んで初めてその存在を知りました。日本では、朝鮮戦争についてはもともとあまり知られていないので、白氏の知名度は低いと思いますが、白氏と日本との関係は深く、日本から勲一等瑞宝章という勲章ももらっているそうです。
 
 数年前にこの本をはじめに読んだときは、その生々しい戦争体験記に感動し、まだご健在である白氏に、手紙を送ろうと思ったくらいだったのですが、手紙を書くというのもあまりに億劫で、結局、書けずじまいになっていました。
 
 朝鮮戦争は、米軍を中心とした国連軍が中心に北朝鮮・中国軍と戦い、当時発足したばかりで訓練や装備の貧弱だった韓国軍はいつも足手まといになった、というのが、一般的に持たれているイメージでしょう。しかし、白将軍はそうした状況の中でも、韓国軍随一の健闘を見せます。緒戦では他の戦線が崩壊する中、ソウル北方で北朝鮮軍を最後まで食い止めたり、絶体絶命に追い込まれた釜山円陣戦では、最弱点部を最後まで守り通したり、また攻勢に転ずると、米軍の戦車との協同を習得し平壌一番乗りを果たすなど、戦争のキーポイントに必ず登場し、成果を上げています。
 そうした成果が認められ、朝鮮戦争後半には、韓国軍初めての大将に命ぜられ、休戦交渉にも韓国軍代表で参加します。
 戦後は、参謀総長などの軍職を経て、軍隊を離れてからは、中華民国・フランス・カナダの大使、大臣、国策化学会社の社長等を歴任します。
 交通部長官(運輸大臣)在任時には、「よど号事件」も発生したのですが、日本政府と共同で対応をとり、また、日本の技術を導入して、ソウルに地下鉄1号線を建設しています。

 この本は、朝鮮戦争の体験談を中心にした氏の自伝ですが、またそれはそのまま現代韓国史になっており、韓国の歴史を知るには実によい資料です。白氏のまわりには、李承晩大統領や、朴正ヒ大統領、マッカーサーアイゼンハワー大統領、さらには、金日成までが登場し、こうした歴史上の大人物の違った素顔を知ることができます。
 
 また、白氏は、台湾では、最近その存在が公式に認められてきた日本軍出身者の顧問団「白団」の人たちとも交流していたそうです。「白団」は、日本の降伏後も上部の命令に背いて武装解除せず、内蒙古から日本人を無事に避難させたことで有名な、もと中蒙軍司令官 根本博氏が団長格だったと言われています。長らくその存在は隠匿されていましたが、昨今ではかなり公になってきています。



 白氏のそうした猛将としての戦歴と比較すると、その容貌はあまりにおだやかです。
 強い軍人というより、そのへんにいる丸顔のあんちゃんのイメージです。
 (ちなみに、私の昔の韓国の友人のひとりによく似ています)
 まだ20代後半の童顔の若者が、突然戦争に巻き込まれ、組織の責任者として絶体絶命の戦場を経て成長していく姿が、この本が共感を呼ぶ理由なのでしょう。
 右の写真は、白氏の肖像の中でも、一番強そうに見える写真です。


 左の写真は最近の写真です。

 日本では、知名度は低いものの、この本の影響もあり好感度の高い白氏ですが、韓国ではその評価は褒貶が激しいようです。満州軍官学校出身で、第2次大戦中は、満州反日ゲリラを討伐していたという経歴は、「親日派」として非難される格好の材料となっています。
盧武鉉政権時代には、政権との関係がかなり悪かったようですが、李明博政権になる関係は良化し、最近では、韓国で初めての「名誉元帥」(5-star)に推薦されている、というニュースもあります。


 1920年生まれの白氏は、日本統治時代に子供時代を過ごし、満州・中国で日本軍とともに戦争を戦い、朝鮮戦争では韓国軍として米軍とともに戦い、戦後は国の発展とともに仕事をし、今はすっかり発展した韓国で余生を過ごしています。
 1960年代生まれの私とは、生まれた時期がたった半世紀違うだけなのですが、その歩んだ時代にはあまりに大きな違いがあります。


 私の過ごしているこの平和な時代は、今後もずっと続くのでしょうか。
 あるいは、人類の歴史の中でも珍しい、つかぬ間の平和な時代だったと、後から振り返られるようになるのでしょうか。


 私は、戦後の日本社会の風潮がそうであったように、人類の確実な進歩を信じたい気があります。
 一方で、今、世の中で起きていることを見ていると、人間は過去からまるで進歩などしていないのではないか、と思うこともあります。
 もしそうであるなら、いつまた戦争の時代に戻ってもおかしくはありません。

 最近マスコミに多く露出して、やたらと不安を煽るナショナリスト達には嫌悪感を感じます。
 その一方で、人類の進歩としてのあるべき姿はイメージしながらも、つい最近まで戦争を繰り返してきた、世界のこの冷徹な現実は、常に事実として踏まえなければいけない、とも思います。
 白氏の本から学ぶべきことは多いのです。