日経ビジネス 2009.11.9特集 「価格崩壊の罪と罰 忍び寄る技術立国の危機」

 先週の日経ビジネスの特集「カイゼンを壊せ」については、実際に紹介されていた事例は、カイゼンを壊すというより、むしろカイゼンをとことん実践している例ばかりではないか?と書きました。

 今週の特集は、より問題の本質を突いているように思えます。


 寡占化した流通や、カカクドットコムが価格を決定し、しかも需要が右肩上がりに伸びない現在社会では、需要と供給のバランスを超えて、構造的に価格が下落し、みなが儲からない消耗戦の状況(=プレーヤー全敗の荒野)が生じている。
 その結果、企業は研究開発費を捻出してイノベーションを生み出す余力を失い、日本のものづくりの勝ちパターンが危機に瀕している。
 しかし、この状況でも多くの日本企業は、依然、顧客にとっての価値ではなく、利益を生まない過剰な機能競争を追及している。
 それと決別しなければ、日本のものづくりに未来はない。


 また、一橋大学の延岡健太郎教授はこう述べています。
「『良いモノを安く売る』から『安く作って高く売る』経営への転換が必要だ」
「日本の製造業は、生産工程の合理化と研究開発投資による製品機能のイノベーションで競争力を保ってきた。それが成立したのは、機能が付加されるほど、価格も上昇するという相関関係があったから。しかし今は、機能と価格の相関は崩れている」



 これは、私自身が、日本の製造業に勤務している上で、まさに直面している課題であり、今までこのブログで何度も書いてきたことです。
 これだけいろいろなメディアで述べられている論点ですので、すでに常識になっていても良さそうに思えるのですが、実際に日本の製造業に関係している人でこの課題をきちんと認識されている人は非常に少ないのではないかと思います。少なくとも、日本やアジアの市場を対象に事業を行っている限り、この問題に直面することはまだ少ないからです。

 私の場合、欧州市場において、日本企業とまったく異なるアプローチで商品づくりを行ってくる欧州地場メーカーとまともに戦う経験を通じて、「販売実績」という厳然たる事実でもって、この課題をいやというほど考えさせられてきました。

 延岡教授は「機能的価値」と「意味的価値」という言葉を使われていますが、私は普段、私の所属する業界の事情に合わせて、みなが直観的にわかりやすいように、「機能価値」と「感性価値」という言葉を使っています。
 それは、私が関係している白物家電における「意味的価値」が、ほぼ「デザイン性」とイコールだと言ってよいからです。

 日本市場の白物家電においては、高機能=高価格という方程式は、基本的にまだ生きています。そこに、デザイン性という要素を持ち込んだ場合、それは+αの付加価値にはなりますが、顧客にとっての本質価値にはなりません。日本の電気量販店の店頭において、商品がPOPでベタベタに埋め尽くされて展示されている状況を見れば、日本のお客様が何を求めているのかは、明白です。
 日本市場においては、冷蔵庫も洗濯機も、基本的に家電製品は、電化製品という「機械=マシーン」であり、感性の入り込む余地は少ないのです。お客様が、「マシーン」が美しいかどうかにお金を追加で払うかどうか、想像してみて下さい。

 ところが、欧州においては、状況は異なります。商品によっても、たとえば「冷蔵庫」と「洗濯機」でも、お客様にとっての位置づけはまるで異なります。洗濯機は「マシーン」ですが、冷蔵庫は「マシーン」でも「家電」でもありません。(これ以上は私の仕事に関する内容ですので、ここでは書きません)

 「安く作って高く売る」ために、どうすればよいのか?
 単純なスペック競争による製品価値ではなく、お客様にとっての「意味的価値」を上げる商品づくりを可能にするためには、どういう組織・仕組み・プロセスが有効なのか?

 その方法論を作り上げられれば、今まで築きあげてきている、製品機能のイノベーション創出能力と、工程カイゼン能力とプラスして、日本の製造業における絶対的な勝ちパターンになるはずなのです。