延岡健太郎著 「アート思考のものづくり」を読む

「アート思考のものづくり」。
 著者の延岡先生には、20年ほど前に会社の研修で数か月間指導をしてもらったことがあります。
 当時のトピックは「擦り合わせ型」と「モジュール型」とか、「イノベーションのジレンマ」とかで、今まで経営なんてものをまるで考えたことがなかった当時の自分にとって、物事を2×2の象限で切れ味良く整理していく講義に目が開かれる感じがしたものでした。
 先日、本屋で延岡先生の新著を見つけ早速読んだのですが、やはりこの方向に来たのかー、という感じです。機能的価値に対する意味的価値、問題解決に対する問題提起、この2軸を組み合わせた4つの象限を、エンジニアリング、サイエンス、デザイン、アート、と定義されています。かつての日本企業の勝ちパターンだったエンジニアリング(機能価値×問題解決)から、欧米企業が得意なデザイン(意味的価値×問題解決)に行くだけでなく、そこから一歩進んでアート(意味的価値×問題提起)を目指せば、日本企業の強みがより生きるのではないか?、というお話です。日本企業におけるこの成功事例として、マツダの例が紹介されています。完璧さの追究や引き算の美学などの日本のものづくりのアイデンティティーを活かし、顧客の想定を超える驚きや感動を生み出すことができたということです。
 このフレームワークの中には、既に一般的になってきた「デザイン思考」に加え、今流行りの「両利きの経営」や、ベルガンティさんの「意味のイノベーション」のコンセプトまでが包含されています。
 最近は、UXとかCXとかの言葉が氾濫していますが、20年前から馴染みの深いデジタル化・モジュール化によるものづくり価値の低下の話から、意味的価値のイノベーションを先導したアップル、経験価値の創出手法であるデザイン思考、さらにそこから進んだ日本独自の顧客価値イノベーションへ、とステップを追って説明してくれるので、頭の中が整理された感じがしました。
 しかし、学者の本なのにずいぶんと思いが入っているなあーという印象。それだけ個人的な危機意識と熱意が込められているのでしょう。