映画「アメリカン・ギャングスター」と「パブリック・エネミーズ」 〜 "Rock aorund the clock"から"Aja"へ

 ヨーロッパ往復の飛行機で、アメリカのギャング映画を2本観ました。「アメリカン・ギャングスター」と、「パブリック・エネミーズ」です。
 両方とも実話をベースにしているということです。
 一方は、大恐慌の後、シカゴマフィア全盛であった1930年代、もう一方は、公民権運動の後、ベトナム戦争の続いていた60年代〜70年代を舞台にしています。同じギャング映画でも、この時代の違いによって、そこで描かれている世の中はずいぶんと異なっています。

 「パブリック・エネミーズ」で描かれているアメリカは、白人オンリーの世界です。この映画に、有色人種はまったく登場しません。主人公も、インディアナ州出身の白人(名前からするとアングロサクソン?)ですし、追う方の、設立されたばかりのFBIメンバーも同様。この映画の中でマイナリティーとして登場するのは、ルーマニア出身の娼婦の元締め女性だけです。

 ところが、その35年後を描いている「アメリカン・ギャングスター」になると、主人公のギャングは黒人になっています。「パブリック・エネミーズ」の中では存在していなかった黒人の社会が、こちらではいきいきと描かれるようになっています。

 当然30年代にも黒人は多くいて、その社会はあったはずなのですが、社会的にその存在は無視されていたのでしょう。その後、第2次大戦、50-60年代の公民権運動を経て、黒人が表社会・裏社会を問わず、社会の表に顔を出すようになってきたわけです。今では、オバマさんがアメリカの大統領であることには何の違和感も感じていないのですが、つい2世代ほど遡っただけで、世の中はまるで違っていたわけですね。


 それにつけても、第2次大戦後の、短期間での世の中の様々な面での変化というのは、人類の歴史上でも最も激しかったのではなかったかと思います。

 日本では、昭和30年代〜40年代に、特に農村地域が大きく変化し、現在につながる日本全国の基本的な生活様式が形作られたようです。
 洗濯機や冷蔵庫など家電製品が一気に普及するのも昭和30年代ですし、自動車が大衆に普及するのも、昭和40年代です。この時期以降も、持続的に改善はされていきますが、この時期ほどの大きな変化は無かったはずです。


 また、いつも感嘆するのは、大衆向け音楽の目覚しい変化です。
 大衆音楽の世界では、50年代から70年代にかけての、たかが20年あまりの間に、曲作りやアレンジ、楽器、機材が急速に進化し、音楽はそれ以前とはすっかり違ったものに変化しています。

 ロックンロールが生まれたのは55年ごろですが、当時は電気楽器はギターのみ(『フルアコ』と言われる、アコースティックギターにただピックアップマイクをつないだようなもので、音色を変化させるエフェクターもなかった)、楽曲も3コード主体の実にシンプルで素朴なものでした。

 それが、その後、ビートルズストーンズやソウル、フォーク、フュージョンなどへ、あっという間に進化発展していき、サウンドは瞬く間に高度化・洗練化されていきます。
 

 "STEELY DAN"は、ポピュラー音楽のひとつの完成形を作ったと思っているですが、彼らが、「AJA」などの代表作を録音したのは、70年代です。彼らの音楽は、そのコード・アレンジ・サウンドとも、今聴いても洗練されており、まるで古く感じません。現在にまでつながるポピュラー音楽は、基本的に70年代にそのベースが完成されていた、ということです。
 つまり、55年の"ROCK AROUND THE CLOCK"から、77年の"AJA"まで、たった22年の間に、爬虫類が哺乳類に進化するかのように、ポピュラー音楽は、すっかり違う次元に進化してしまったわけです。
 最近の音楽は、細かいところではいろいろ流行はありますが、基本的には70年代に完成されたポピュラー音楽の作法にのっとっています。ハードにロックしてみたり、アンプラグドやフォークが流行してみたり、いろいろなパターンを繰り返しているだけで、特に新しさを感じることもなくなってきました。「ビートルズ以前・以後」のような、断絶はもう起きないのでしょうか。
 私の世代では、親子間で、音楽の趣味においては明確なジェネレーションギャップがあったものです。ところが、今の世代は、親子間で同じ音楽を聴くようになっています。そのうち、おばあちゃんと孫が同じ音楽を楽しむようになるのでしょう。


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彩(エイジャ)

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