「父・金正日と私 金正男独占告白」五味洋治著 を読む

 この本、ずいぶんと話題になっていて、AMAZONで注文しようとしたらしばらく売り切れになっていました。書店でも売り切れのところが多かったようです。何とか入手して、やっと休みになった今日、読んでみました。
 
 金正男氏は、いままでたびたびマスコミに顔を出していますが、テレビでインタビューにこたえているのを見ると、わかりやすい英語や韓国語で、落ち着いて常識的に話しており、好印象を受けます。また、その身なりも、太って髪も薄いのに、ネックレスをしたりやけにオシャレにしているところが、自分の周りにもよくいそうな、ちょっと勘違いな、もてないチョイワルオヤジという感じで、妙に親しみを感じてしまいます。
 存在がぶっとんでいて、理解しがたい北朝鮮の独裁権力者親子の姿とは違って、金正男氏の人間らしいキャラクターは、日本でも多くの人に親しみをもたれているようです。
 著者は、今まで7年間にわたり金正男氏とメールでのやりとりを続け、さらに本人との直接のインタビューも2度行ったそうです。海外のマスコミの中でも、もっとも多く金正男氏とコミュニケーションをとってきた人の一人なのでしょう。いつもマスコミでは断片的なコメントしかしない金正男氏が、長期間のやり取りを通していったい何を語っているのか、多くの人にとって興味津津だと思います。
 特に、金正日が亡くなり、金正恩氏への政権移譲がホットトピックになっている今、金正男氏の動向はますます注目を集めています。このタイミングで今まであたためられていた内容が本として出版されたことは、何らかの意図があったとのではないかと思ってしまいます。


 インタビューメールでのやりとりの中で一貫して述べられているのは、以下の3点だと思います。

1.北朝鮮の経済状況を改善させるには、改革・開放路線を進めていくしかない。それなしの「強盛大国」など絵空事である。しかし、改革・開放にともなう人や情報の出入りにより体制を維持することが難しくなるため、それができていない。

2.自分は、西側資本主義社会の自由に染まり、経済の改革・開放路線を進めようとしたため、後継者候補から外れた。

3.三代世襲は世界の笑い物である。しかし、金正日氏は安定的な権力の承継のため、やむを得ず後継者を世襲せざるを得なかった。若く経験のない金正恩にとって権力承継は難しい。

 これ以外は、本人のプライベートに関する断片的な内容です(こちらの方が興味があったりしますが)。


 これから素直に考えると、金正男氏がマスコミを通じて情報発信したいポイントは、北朝鮮は、改革・解放に舵を切るべきであり、その時の指導者は、金正恩ではなく、韓国なまりの朝鮮語を話すほど西側の資本主義社会に慣れ親しんでいる自分である、ということのように思えます。
 インタビューやメールによる情報発信の目的は、そのための布石として、国外で金正男期待論をつくっていくことなのでしょうか。

 

 日本では一般的に、北朝鮮は閉ざされた国として人々の顔も見えない不気味な存在のように認識されていますが、そこに住む人々は、南側の人々と同じ朝鮮民族であり、基本的にネアカで、情に厚く、礼儀正しい人達のはずです。

 私は、92年に会社からの派遣で上海に留学していたのですが、当時は中国と韓国の国交成立以前で、上海の各大学には北朝鮮からの留学生が何人も来ていました。私は当時、韓国留学で学んだ韓国語をまだ忘れずに話していたので、彼らと親しくなり、よく酒を飲んで、ギター弾いたり、彼らの寮の部屋に泊まったりしたものです。寮の部屋に、金日成肖像画が貼られていたのだけには違和感を感じましたが。

 北朝鮮から来ていた留学生にもいろいろなタイプがいて、真面目に勉強しているヤツもいれば、遊び人もいました。特に印象に残っているのは、いつも上海人美女をはべらしている遊び人学生で、何かしら中国でも商売をやっているらしく羽振りもよく、当時は少なかった外資系ホテルのDISCOをベースにしていていました。音楽が好きだった私は、なぜかその北朝鮮学生から、そこのDISCOでDJをやらないか、と誘われたりしたものです。
 また、旧正月になると北朝鮮の留学生たちもみな国に帰るのですが、そのとき親戚に炊飯器などのお土産を買っていかなければいけないのにお金がない、ということで、学生から相談され、お金を貸してあげたこともあります。(その後、私の仕事が忙しくなったこともあり、結局お金は返してもらっていませんが)

 上海に留学に来ていた彼らが、その後いったいどうなったのか、今ではまったくわかりません。最近になって、FACEBOOKのおかげで昔の友人と20年ぶりくらいに連絡がとれるようになってきているのですが、北朝鮮の連中だけはまだ対象外です。北朝鮮の実家の住所を紙に書いてくれた人もいたので、ひょっとすると手紙を出せば届くのかも知れませんが。


 東アジアに残った最後のフロンティアである北朝鮮は、これからいろいろ動きがありそうです。
 市場が開けば、インフラから消費財、奢侈品まで一気にビジネスチャンスが生まれることでしょう。
 そろそろ私も、すっかり忘れてしまった韓国語をまた思い出すべきタイミングのようです。