ブルネロ・クチネリ著 「人間主義的経営」を読む

このブログ、一時期集中的に書いていた時期があったのですが、その後いろいろ忙しくなり、もう10年近くも放置していました。
最近iPad用のキーボードを買ったこともあり、また軽く書いて見ようと思います。
まずは過去にFacebook等でたらたら書いていたことの転載から。

この本はファッションブランド「ブルネロクチネリ」を一代で築き上げた創業社長の自伝/経営回顧録ですが、ビジネスの話は少なく、哲学・文化や随想、社会貢献の内容がメインです。ブルネロクチネリというファッションブランド自体には全く縁がなかったのですが、この会社は「人間の尊厳」を大切にすることを理念とし、職人に対する高い給料や待遇、職業学校の運営、本社を置く村の再生・環境整備など、一貫した理念のもとに事業を続け、結果として大きな成長を遂げ、高い収益を上げているとのこと。

「歴史」や「ストーリー」が重要なブランドの世界で、一代でゼロからトップブランドを築き上げた、ということは驚きですが、そこにはガツガツした資本主義っぽい生臭い話はまったく出てきません。

人間の尊厳を尊重し、美しさを求め、自然や歴史との調和を図る ー 経済的な話よりもこうした理念を追求してきた話なのですが、こうした理念をどう経済的活動であるビジネスにつなげて成り立たせてきたのか、についてはとても気になります。
特にブランドが確立して独自の価値が認知されるようになるまでの立ち上げ期では、高い値付けも難しいでしょうし、販売の量も出ない、一方で高い品質には妥協できず、職人にも良い待遇を与える、という矛盾をどう解決してきたのか。倫理的な態度で理念を語ることによって、サプライヤーや販売先といったパートナーをつくってきた、ということはちらっと触れられていますが、それだけではこれだけの事業の成長は起こりえないでしょう。もっと独自の仕組みがあったはず。この本のテーマとは合わない内容だとは思いますが、そこがこの本を読んでいてずっと気になっている点です。

こうした経営理念は、今でこそ共感を呼ぶ時代になってきていますが、つい20-30年前であれば大きな違和感を持たれていたのではないかと思います(特に米国や日本では)。彼が40年前から一貫してこの考えで事業を行ってきているということは驚きです。またこの事業がこれだけ成功しているということは未来へ向けた希望、そして勇気を我々に感じさせてくれることだと思います。