藤井保文著「アフターデジタル2 UXと自由」を読む

2年前の年末年始休みに熟読した本です。
最近はUXとかDXとか、7年前に日本にいたときには全く耳にしなかった言葉が氾濫していてすっかり浦島太郎状態なので、いったいその思想や考え方は何なのかを理解したいと思っていたのですが、この本は大きな視点でそれをわかりやすく説明してくれています。スタートアップよりもレガシー企業で働いている人たちを対象読者にしていることもありピンと来やすいです。また紹介されている中国のプレーヤーの事例も、30年近く前に中国で生活していた感覚からすると、その価値観がよく理解できます。

・製品を販売することがゴールの従来型の「バリューチェーン」から顧客の成功がゴールの「バリュージャーニー」へ。世界観を体現したUX(顧客体験)を提供するジャーニーに共感した顧客が乗り続けるモデル。
・顧客と高頻度の接点を持ち、顧客を属性レベルではなく「状況レベル」で理解して最適な商品・サービスを最適なタイミングで提供するプレーヤーが強くなる。メーカーはそこに商品を提供する下請けになる傾向。
・商品の購買はジャーニーに埋め込まれていく。関係ない分野の商品でも世界観が好きなので購入してしまう。検索や比較検討という行動が起こらない。
・中国では社会的な問題が解決されて皆が便利になる「利便性」がDXの原動力だった。金銭的に豊かになるという共通の太い軸を中心に価値観が展開。少数のプレーヤーがネットワーク効果で独り勝ち。一方で既に社会的に大きなペインが存在しない日本では自分らしい生き方を獲得する「意味性」が重要になる。多様な世界観を体現する選択肢の中から自由にジャーニーを選択し、ジャーニーのUXはテクノロジーでアップデートされる社会へ。
・オンラインベースの社会では、企業が社会のアーキテクチャーの設計に参画できる(インターネットのアーキテクチャーがそうだったように)。データ管理等によるディストピアを招かないためには、どんな世の中にしたいのかという「精神」が重要になる。中国のプレーヤーにはそういう意識を持っているケースが多い。
・在来型の資本主義は、利潤を生産活動に再投資するループ。バリュージャーニー型ビジネスでは、剰余価値である利益とデータをUXの企画に還元するというダブルループ
・レガシー企業にとっては、時代の変化に合わせて価値を再定義し、テクノロジーを活用して実現することが必要。利便性はコピーできても世界観やブランドは模倣できない。
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まだいろいろありますが、ビジネスの技術的や方法論の話に留まらず、テクノロジーやUXとかいうもので、どういう社会を作っていきたいのか、という視点がコアにあるところがエライです。結局、ビジネスは人が共感して動いていくことだと思いますので。