「ある韓国外交官の戦後史」梁世勲著

 こちらもこの1週間に読んだ本です。最近ずいぶん本を読んでいるなあと思います。近所のショッピングモールにある本屋さんで発見し、立ち読み(最近は椅子を置いている本屋さんが多いので、正しくは「座り読み」)していたのですが、途中まで読んで面白そうだったので、2,000円もするのに買ってきました。
 内容は、韓国の一外交官の書いた自叙伝です。

 旧満州で生まれ、八路軍勝利後の中国から、北朝鮮を経由してやっとのことで韓国へ脱出、その後ソウルに落ち着くや否や、625動乱に巻き込まれ、プサンでの避難生活。。。という激動する少年時代を経て、ソウル大学卒業後、国家公務員から外交官となります。アメリカ、シンガポール、日本、ハワイ、ノルウェーへ赴任し、日本からの経済協力問題、中国との国交樹立の水面下の調整や、金大中元大統領のノーベル賞受賞への画策など、歴史の様々な舞台にかかわりながら、外交官生活を送ってきました。

 プロの文筆家の文章ではありませんので、事実を並べた荒削りな文章で、テンポが良く読める反面、やや説明不足で、読み返さないとストーリーが理解しにくいところもあります。

 日本や中国との外交の表舞台にかかわる筆者の中年時代のパートでは、話がダイナミックとなり、外交の裏での実情もわかり、興味深く読むことができます。しかし、後半では、成果を人にとられてしまったり、政治の力学に翻弄されてしまったことへの恨めしさが強く現れてしまい、愚痴っぽい印象を受けてしまいます。

 全体として強く感じるのは、筆者の「抑えたトーン」です。さまざまな国の人々と単純な利害を超えた仕事をしてきた経験をもとに、観念的な攻撃や批判ではなく、いろいろな視点がある現実を踏まえ、現実を現実として捉える、という大人の姿勢、を感じます。

 この本の内容は、日本ではかなりマニアックな視点の内容だと思うのですが、このような本が日本で出版され、家の近所でも売られている(と言うことは買う人がいる?)ということを考えると、日本と言う国には、結構、懐の深さと考え方の多様性があるのだな、と感じてしまいます。